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そんな俺の愛と銭

目次

作者プロフィール

作者:櫻井智也

1973年生まれ。千葉県出身。劇団MCR主宰。脚本家、演出家、俳優。猫が好きで甘いものが嫌い。演劇専門学校在学時、友人たちと一度きりの予定で公演するが、「意外とやれるかも」と徐々に劇団化。常日頃、お金のとれる会話とは何かを考え、芝居を作っている。その独特の言語感覚で紡ぐ舞台は、たとえゾンビが出てきても日常と地続きになり、観客を物語へ引きずり込む。MCRに欠かせない要素である「笑い」を水先案内人に進むうち、ふいに切なさに襲われる経験は一度味わえば癖になるだろう。十数年、演劇界に埋もれてきたダークホース。

大人の冒険(1)ある二人の葛藤劇

みなさんはここぞという時、力強く前に踏み出す勇気がありますか?

僕はそれを手に入れ、発揮できるように精進しております。

生きていれば誰でも「さあ来たぞ」「今こそがその時だ」という瞬間がやってきます。

しかし、それがやってきてもなお「もしかしたら今じゃないのかもしれない」と二の足を踏みつつ「今がその時だという保障が欲しい」などと思ったりするもんです。

小さい頃、あの、ワクワクだけが僕を動かしていた頃、冒険心に満ちあふれ「いつか無人島に行ったときのために水たまりの水を飲めるようにしておこう」と空き地の水たまりに口をつけてそれをすすり、それから何年か自らの糞に小さな虫が紛れたりすることになった僕はどこに行ってしまったのか。

テレビでドラキュラの映画を見て怖くなり、寝ている間にドラキュラが来ても襲われないようにと、パイプベッドを繋ぐネジというネジにニンニクをすり込み、以降、数年間つねにニンニクのオーラに包まれて寝るハメになった僕はどこに行ったのか。

本当に、本当にあの頃の行動含めて自分が嘆かわしい。

しかし、あの頃、ニンニク臭を追い出す換気のため開けっ放しにしていた窓からは、ピーターパンがやってきていたはずだ。

ドラキュラを追い返すための処方が、結果的にピーターパンを招く儀式に繋がったあの頃、いつかラブホテルの前で2時間ほど「世間話をしながら中に入るタイミングをうかがう」大人になるとは僕もピーターも想像できなかっただろう。

さて。

お互いに、惹かれあっているのはもうわかっている。

酒を飲み、飯を食い、おちゃらけた会話の中になんとなくの「想い」を忍ばせたりして時間は進み、なんとなく新宿をブラブラし続ける。

お互いに、惹かれあっているのはもうわかっている、のだが、惹かれあい引かれあって体を重ねてしまえば、今のままではいられず、その先にある視界の変化に戸惑うであろうことも充分理解している、そんな二人でありまして。

それと同時に、最初のデートからホテルとか行っちゃっていいのか? 体が目的だと思われたらなんか腹立つし、でも今すぐにでもイチャイチャしたい、彼女は「これからどうするの?」とか「どこでもいいよ?」なんて言ってくれているが、「じゃあホテルに行きましょう」などと言ったら「その選択肢だけはなかった」とか言われるんじゃねえか? そうなるとアレだぞ、なんとかきれいなハート型になるように積み重ねてきた「あんたを想う気持ち」が、一気に下品な形として提示されることになるんじゃねえのか? それは不本意だ、あまりにも不本意すぎる。

しかし、俺にはわかる、彼女もそれを望んでいるということ。それがわかっているのに「もしかしたら」を恐れ、踏み出せないでいるこの時間、なんて、なんて不毛な時間なんだ。

  よし、ここは俺が泥をかぶるか。

「泥をかぶる」という表現がこの場合において的確ではなく、女性の気持ちをイラッとさせるのは理解しておりますが、「お前の気持ちはわかった、だが、ここは『俺がそうしたかったから』でいいゼ」みたいな自己犠牲的なマインドでもいいから進まないとマズい。

じゃないと、なんか、どんどん「ホテルに行こうよ」と言ってくれ、頼む、むしろ手を引っ張って連れ込んでくれたまえみたいな気持ちが大きくなっちゃう。

  男として、それはイカン。

何を今更とお思いでしょうが、いざという時に「俺は男である」ということを示さなければバランスが取りづらい、男とはそういうものなのです。

  ホテルのほう、行こうか。

ここにきて「ホテル」そのものではなく「ホテル近辺」を目指そうと言ってしまうナヨナヨしさ、しかし、誰がそれを責められるだろうか。

見ろ、確実に僕らは歩みを進めたではないか、そう、僕らは知っている。

ホテル近辺にはホテルへと続く道しかないということを。

インフォメーション

櫻井さんが客演!劇団ブラジルの公演に客演中! 役者・櫻井を堪能するチャンス。連載ファンはぜひ応援にいってみて。チケット絶賛発売中。

「FUTURE」
2009年12月16日(水)〜12月21日(月)
作・演出:ブラジリィー・アン・山田
  キャスト:高山奈央子(KAKUTA)、櫻井智也(MCR)、諌山幸治、辰巳智秋ほか
場所:駅前劇場(下北沢)
http://www.bra-brazil.com/index.html

 

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