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1973年生まれ。千葉県出身。劇団MCR主宰。脚本家、演出家、俳優。猫が好きで甘いものが嫌い。演劇専門学校在学時、友人たちと一度きりの予定で公演するが、「意外とやれるかも」と徐々に劇団化。常日頃、お金のとれる会話とは何かを考え、芝居を作っている。その独特の言語感覚で紡ぐ舞台は、たとえゾンビが出てきても日常と地続きになり、観客を物語へ引きずり込む。MCRに欠かせない要素である「笑い」を水先案内人に進むうち、ふいに切なさに襲われる経験は一度味わえば癖になるだろう。十数年、演劇界に埋もれてきたダークホース。
家に着き、さてどうするかと思案を巡らせましたが、一向にナイスなアイデアが浮かんできません。あんまり浮かんでこないので
「どうするかな、どうするよ、え? どうするの?」
と声に出して自分自身に質問したりしてしまいます。
しかし実際声に出してしまうことで「どうにもならないね」ということを実感してへこんだりします。へこむと思考回路がマイナスマイナスしてしまうので、僕は何とか自分にとってのアドバンテージを見つけようと冷蔵庫を開けたり換気扇をつけたり、あ、まだイケる部分を見つけだし、ミクロな安心感を自分自身に植えつけていきました。
そして気分転換をしようと、「風呂でも入るか」とやっぱりなぜか声に出して風呂場に向かいました。
風呂というか流し台なんですけど。僕はバスキッチンと呼んでましたけど。
全裸になり、ヨイショとプロレスラーがトップロープをまたぐ要領で流し台に上がり膝を丸めます。ものすごい猫背になっちゃいます。冬とかにトイレに座るとお尻が「冷た!」ってなるときあるじゃないですか、あの感覚が毎回腰骨とかにまで伝わります、アルミなんで。
毎回キッチン(お風呂兼用)の窓ごしに僕の裸体が外に見えていたはずです。でも外から見ると桃色の塊にしか見えなかったかもしれません、かなり丸まってたんで。
とにかく僕はその態勢でガス給湯器のスイッチを押しました。
貧乏までも洗い流してやれ。
そんな気持ちでいたところに、ものすごい勢いで南アルプス天然水みたいなやつが背中を直撃しました。
イテ!
なんだか痛かったんです。冷たいの通り越して痛かったんです。痛さのあまりビクン! と体が反応して反った背中が水道の蛇口に激突して背中の皮がちょっぴりむけるという最悪のシナリオを描いてしまうほどでした。僕は全裸で流し台から転げ落ち、
「お湯 水 お湯 水」と言いながらキッチンをのたうち回りました。
「お湯(じゃなくて)水(かよ)お湯(かと思ったら)水(出ちゃうのかよ)」と。
僕は何とか立ち上がり、お湯が出るのをひたすら待ちます。
お湯待てど湯気あがらず
そんな情緒のある光景が延々と続き、ガスが止められていることを悟りました。
ものすごい絶望感です、表現する言葉が見つからないほどです。お金がないので最低1カ月はガス代が払えません。ということは、お風呂に入れません(もともと風呂はないんですが)。料理するにもガスが使えないから冷たい物しか食べられません、まあお金がないので料理しようもないんですけど。
僕は心底へこんでこたつに入りテレビをつけ、「あ、テレビはつく」って今度は声にも出ない声で安心したフリをしてゲームのスイッチを押しました。そう、現実逃避です。
そのままゲームを30時間以上やり続け、眠くなったらそのまま目を閉じて眠りにつき起きたらまたゲーム。そんなことを3日ばかり続けたのです。そのうち本気でお腹空いたなと思い、何かないかと辺りを探しはじめました。すると隣の部屋に「カタン」という新聞を配る音が聞こえたのです。僕は「新聞・・・紙・・・木」と原料当てクイズみたいなことをして、
あ、食えるかも。
その時は不思議とそう思ってしまって、静かに外に出て配達したての(隣の人の)新聞を自分の部屋に持ち帰り、
「チラシは固そうだな」
とこの期に及んで選りすぐり、なおかつ紙を食うという明らかに健康を害するであろう行為を差し置いて、
「インクは体に悪いかも」
と奇妙なこだわりを見せたりしながら新聞紙を水につけ込みました。
「お湯だったらきちんとインクが抜けるかもしれないのになぁ」とお湯が使えるぐらいなら新聞紙は食わないですむという前提を無視しながら水に浸した新聞紙を眺め「このぐらいでいいか」って、まるで増えるワカメを水からあげる要領で灰色ベースの柔らか食品(グニャグニャ新聞紙)を取り上げました。
「水ごときでインクは抜けません」と言わんばかりの毒々しいものを皿に盛りつけマヨネーズもないので醤油をかけました。そして食いました。スポーツ面を食い終えたところで
「ギブアップ」
と食が細いのか太いのかわからないがご馳走様をしてコタツに入り目を閉じて、人間ギリギリになっても味覚はなくならないんだなと感心したりしていました。
そのうち日が経つにつれて、いちいち水を飲みに立ち上がるのも面倒になったので、近くの民家から長めのホース(庭に水をまくためのやつ)を拝借してきて、それをキッチンの蛇口に差し込み、微かに蛇口を開け、ホースをコタツのところまで伸ばして口にくわえて寝転がる「立ち上がらなくても水が飲める作戦」という末期的な作戦を実行に移しました。
お腹いっぱいになったら窓を開けてホースをベランダに置いておく。水は流れ続け、僕の口の中に入るかベランダの下に生えている雑草の栄養になるかどっちかです。お陰でたったの3日間で雑草はスクスク伸びて僕の部屋のベランダだけジャングルみたいになりました。
バイトはしていたのですが3日働いて4日休むという変則シフトだったので、4日間は大体その態勢を保っていました。そんな生活が続いたある日、立ち上がろうとして身体の異常に気がついたのです
僕、立てません。
そう、足がふらついちゃって立てなくなっていたのです。そうなって「子鹿みたいだな」と思いながら、いよいよかな? と覚悟を決めようとしたとき、激しすぎる感情が僕を襲ったのです。
・・・死にたくねえ!
立ち上がれないほどになって僕は生への欲求がガンガン湧いてきて、
「死なないぞ 死なないぞ」
と念仏でも唱えるように何とか立ち上がり壁づたいに外に出ました。
その後も両手を壁にかざし、ふらつく足を引きずりながら僕は「死ぬもんか、死ぬもんか」と「ねえ、あのお兄ちゃんなにやってんの?」と無邪気な子どもが親に尋ねたら「ハイ、見ないのよ」と厳しく、優しい口調で叱りつけるような生への行進を続けました。
実際、子どもが寄ってきたんですが(見るからに怪しいので)、「殺すぞ、どけ、殺すぞ、どけ」って蚊も殺せないような声で威嚇したのを覚えてます。

櫻井さんが客演!劇団ブラジルの公演に客演中! 役者・櫻井を堪能するチャンス。連載ファンはぜひ応援にいってみて。チケット絶賛発売中。
「FUTURE」
2009年12月16日(水)〜12月21日(月)
作・演出:ブラジリィー・アン・山田
キャスト:高山奈央子(KAKUTA)、櫻井智也(MCR)、諌山幸治、辰巳智秋ほか
場所:駅前劇場(下北沢)
http://www.bra-brazil.com/index.html