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そんな俺の愛と銭

目次

作者プロフィール

作者:櫻井智也

1973年生まれ。千葉県出身。劇団MCR主宰。脚本家、演出家、俳優。猫が好きで甘いものが嫌い。演劇専門学校在学時、友人たちと一度きりの予定で公演するが、「意外とやれるかも」と徐々に劇団化。常日頃、お金のとれる会話とは何かを考え、芝居を作っている。その独特の言語感覚で紡ぐ舞台は、たとえゾンビが出てきても日常と地続きになり、観客を物語へ引きずり込む。MCRに欠かせない要素である「笑い」を水先案内人に進むうち、ふいに切なさに襲われる経験は一度味わえば癖になるだろう。十数年、演劇界に埋もれてきたダークホース。

俺の底(3) 恵まれない僕に愛の手を

そのまま阿佐ヶ谷のジョナサンにたどり着き倒れ込むような感じで席に着いてハンバーグとドリア、あとコーンスープをオーダーしました。食って、食って、食い倒し、「油、久しぶりだなあ」って涙が出るような感想を述べて、ふと店員を見ると「さあ警察に電話して」な態勢を取っています。

僕はポケットに手を突っ込み、あれから手をつけていない140円を取り出して公衆電話に向かい、お尻のポッケから手帳を出して電話をかけました。

電話口に女の子の声がする。それを確認して僕は、

「大切な話があるから阿佐ヶ谷のジョナサンにきてくれないか」と言い、それからしばらくしてジョナサンにやってきた女の子に、

「君のこと好きになっちゃうかも(しれんかも)」

と告げました。

女の子はすごく喜んでくれて、それを確認した僕は、

「だからご飯おごって」

と「だから」の意味がわからないとツッコまれそうなことを言いました。

そう、僕は、彼女の僕に対する気持ちを知りながらそれを利用したのです。彼女は何の疑いもなく(疑ってたのかもしれないけど)ご飯をおごってくれて、店を出たあと僕の腕に手を回してきました。僕はキッパリとそれを拒否して、

「まだ、好きになっちゃうかも(しれんかも)だから」

と「まだ駄目よ」なポーズを取り、「じゃあ」と一人家路につきました。

その後、何度かご飯をご馳走になり、そして僕の給料が出た日に

「はっきりしてよ」

と言われたので、僕は給料袋を握りしめながら

「あんまり好きじゃない」

と答えました。女の子は「ひどい、私がいなきゃ死んでたじゃない」って泣きわめいて、だから僕はその子にこう言ったんです。

「金、返そうか?」って。

駅前でやっぱり子どもたちが「恵まれない子どもたちに愛の手を」と叫んでます。彼女が僕に差し伸べてくれたのは、きっと愛の手だったと思います。僕が握り返すことはなかったけど愛の手を差し伸べてくれました。

だから僕は身体のどこを見られるよりも恥ずかしい気持ちで、彼女に「おごってくれてありがとう」と言いました。

駅前で子どもたちが笑顔を振りまきながら「恵まれない子どもたちに愛の手を」と叫んでます。

僕はいつか大人げなく言ってやろうと思うんだ。

救いを求めるっていうのは、笑いながらできることじゃないぜってさ。

インフォメーション

櫻井さんが客演!劇団ブラジルの公演に客演中! 役者・櫻井を堪能するチャンス。連載ファンはぜひ応援にいってみて。チケット絶賛発売中。

「FUTURE」
2009年12月16日(水)〜12月21日(月)
作・演出:ブラジリィー・アン・山田
  キャスト:高山奈央子(KAKUTA)、櫻井智也(MCR)、諌山幸治、辰巳智秋ほか
場所:駅前劇場(下北沢)
http://www.bra-brazil.com/index.html

 

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