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そんな俺の愛と銭

目次

作者プロフィール

作者:櫻井智也

1973年生まれ。千葉県出身。劇団MCR主宰。脚本家、演出家、俳優。猫が好きで甘いものが嫌い。演劇専門学校在学時、友人たちと一度きりの予定で公演するが、「意外とやれるかも」と徐々に劇団化。常日頃、お金のとれる会話とは何かを考え、芝居を作っている。その独特の言語感覚で紡ぐ舞台は、たとえゾンビが出てきても日常と地続きになり、観客を物語へ引きずり込む。MCRに欠かせない要素である「笑い」を水先案内人に進むうち、ふいに切なさに襲われる経験は一度味わえば癖になるだろう。十数年、演劇界に埋もれてきたダークホース。

俺のハウツー(3)脱ぎ方がわからない

  ここからだ、ここからが本番だ。

頭の中でドントの1ページ目をめくる、目の前の彼女と照らし合わせる。

  ・・・服、着てるんですけど?

おかしいじゃないか。ドントでは1ページ目から上半身は裸だったのに。この時点ですでにクタクタなんですけど。

ドント曰く最高のHテク、それを駆使する前に大きな山が二つもある。その山の前で遭難寸前だ。
疲れ果てた僕は彼女にこうつぶやいた。

「みんなさあ、どうしてるんだろうね・・・」

世の中にはきっと言っちゃいけないことがある。格好つけることをやめたら年老いていくだけだ。しかし思考が止まりかけていた僕はそう問いかけてそれでも怒ることなく、

「脱ぐ・・・かな」

と答えてくれた彼女に「脱ぎ方を聞いてるんだよ」なんて、100人が100人「脱ぎ方?」って聞き返してきそうなことを言いながら「ムードとか、いらねえよな?」などと、ムードを大切にしていたからこそインコを使ったことも忘れて服を脱ぎ始めました。

ドント体勢(パンツ一丁)になって寝転がり、吊されている照明器具を見つめながら僕は、

「原点に、やっと戻った」

と、明らかにマイナス地点にいるにも関わらずそう思って彼女を待ちました。

  来いよ、今更ドントはドントだぜ。

もういい加減ドントから離れたかったが染みついてるモノはなかなかはがれず、気持ちを入れ替えて最高のHテクの手順を頭の中で追っている僕に彼女がこう言いました。

「音」

「音?」

そう聞き返した僕の耳に飛び込んできた何よりも強いドント。

「トモ帰ってるの?」

そりゃねえよ母ちゃん。思うと同時に暴力的な速さで服を着て、

「いるいるいるいる!」

と、こっち来ちゃドント、俺がそっちの部屋に行くからドント的なアピールをして母ちゃんのいる部屋に行くと絶対玄関に置いてあった女物の靴で理解してるはずなのに

「誰か居るの?」

と聞き返してきたりしやがったので彼女が来てることを告げると、母ちゃんはニヤリと笑ってこう囁いたのです。

「ケーキかね?」
意味がわからないが母ちゃんは僕に笑いながら言いました。

彼女を家まで送る道すがら、何とも感じたことのない気持ちで接しながら僕は、

「心が繋がるために、体の繋がりが欲しいんだ」

って、だったらドントとか読まないでよって言われそうなことを言いました。

そしたら彼女は「わかってる、次は遊園地に行こう」って笑ったのです。

彼女はその後、就職した会社で嫌なことがありどんどんおかしくなっていって、僕の誕生日なのに「暑いから帰る」って本当に帰ったりするようになりました。

結局、彼女とはドントをドゥーできなかったんだけれども。

別れてしばらくして彼女から電話があって、今は彼氏と仲良くやってるって言うので僕は「うまく彼とデキましたか?」と聞いたら、彼女はお姫様だっこされたあの時みたいにケラケラ笑って「いいもんだよねえ」って声を弾ませました。

「本当に、心が繋がったような気がしたよ」って明るい声でちょっと恥ずかしげに。

なんだよ馬鹿野郎って僕は思いながらも、軽いノイローゼから立ち直った彼女に安堵し、結果的に立ち直らせた彼女の彼氏に感謝し、あの時つぶやいた自分の言葉に酔いしれました。

それだけはハウツー本に載っていない、僕の言葉だったから。

本当にそう思っていたかどうかは、思い出せないけどさ。

インフォメーション

櫻井さんが客演!劇団ブラジルの公演に客演中! 役者・櫻井を堪能するチャンス。連載ファンはぜひ応援にいってみて。チケット絶賛発売中。

「FUTURE」
2009年12月16日(水)〜12月21日(月)
作・演出:ブラジリィー・アン・山田
  キャスト:高山奈央子(KAKUTA)、櫻井智也(MCR)、諌山幸治、辰巳智秋ほか
場所:駅前劇場(下北沢)
http://www.bra-brazil.com/index.html

 

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