歌舞伎『国性爺合戦』を現代風に解説。中国と日本、熱き男たちの国境を越えた壮大な物語

更新日:2018/03/14

第32回 恋する歌舞伎は、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎:第32回『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』

【1】正義感の強い男、血気にはやる

肥前の国(長崎県)平戸の漁師・和藤内(わとうない)は、明(中国)の高官だった父と、日本人の母の間に生まれたハーフ。ある日和藤内は、明が韃靼国(だったんこく)に攻められているという噂を耳にする。熱血漢の和藤内は、父の祖国を復興するため家族とともに中国へと渡るのだった。

父・老一官(ろういっかん)、母・渚(なぎさ)と中国大陸に上陸した和藤内は、甘輝(かんき)という将軍を訪ねて獅子ヶ城にやってきた。なぜなら甘輝の妻は、父・老一官が2歳のときに別れた先妻の子。つまり和藤内にとっては義理の姉だと知ったからだ。しかし甘輝は留守で、城の門番は怪しい親子に目通りを許可しない。どうにも困っているところに美しい女性が現れる。この女性こそ、甘輝に嫁いだ娘・錦祥女(きんしょうじょ)なのだった。

【2】腹違いの姉はキーパーソン!願いは聞き届けられるのか

老一官は高楼に立つ錦祥女に向かって父だと名乗るが、彼女に実父の確かな記憶はなく、突然の申し出に戸惑っているよう。そこで老一官は娘と別れる際、自分の絵像を持たせたと伝える。錦祥女はそれを聞き、幼いころから肌身離さず持っていた巻物の絵と見比べ、この男性が父であることを確認し懐かしさを覚える。

すっかり心を開いた錦祥女は、夫・甘輝に会いたいという願いを聞き届けて欲しいと門番にお願いするが、他国の者は城内に入ることは許されないと断られる。そこで渚は、せめて老女である自分に縄をかけさせた上で、城に入れて欲しいと乞い願う。錦祥女は縛られた義理の母を連れ、「もし夫を説得することができたら白粉を、聞き入れられなかったら紅をといて城外の川に流す」と約束し、城へと入っていく。

【3】熱心な訴えも虚しく、川は赤く染められる

韃靼王に呼び出されていた甘輝が帰城するなり、渚は「どうか明国再興のために、和藤内の味方をしてやって欲しい」と嘆願する。先祖代々、明の臣下の家柄にある甘輝にとって、その申し出は望むところだった。ところが、甘輝は突然、錦祥女を刺し殺そうとする!

「今、和藤内の味方をすれば、妻の親類のために寝返ったと思われ恥辱である。そこで妻との縁を絶った上で、明への忠義を示さなければならない。だから錦祥女を殺すのだ。」と言うのだ。錦祥女は自分の命を投げ出そうとするが、渚はそれを必死に止める。甘輝は最終的に、和藤内の味方をすることはできないと言い放つ。それを聞き錦祥女は約束通り、泣く泣く紅を流し、交渉は不成立だということを和藤内に伝えるのだった。

【4】男たちの意志を変えたのは、女たちの覚悟だった・・・

橋の上で今か今かと錦祥女の答えを待っていた和藤内。川面が赤く変わるのを見るなり、怒りをあらわにし、母を助けに再び城へと向かうのだった。

城へ乗り込み甘輝に詰め寄る和藤内だが、両者は一歩も譲らず、ついには剣に手がかかる。それを止めようと、よろよろと出てきたのは錦祥女。彼女は血を流しているではないか。実は先ほど川に流れてきたのは、錦祥女が自害したときの血。息も絶え絶えになりながら「どうか私の命に免じて、父や弟に協力してほしい」と甘輝に訴える。さらに痛ましいことに、「娘だけを逝かせる訳にはいかない」と、渚も自ら命を落とす。妻やその義母の、命を賭しての訴えに心を打たれた甘輝は味方になることを約束する。そして和藤内を「国姓爺鄭成功(こくせんやていせいこう)」と名乗らせ、ともに韃靼討伐を誓い合うのだった。

『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』とは

近松門左衛門作。人形浄瑠璃で正徳5(1715)年11月大阪竹本座初演。歌舞伎は享保元年京都都万太夫座初演。和藤内のモデルとなったのは鄭成功(ていせいこう)という、明の人を父に、日本人を母に持つ若き武将。史実をもとに脚色を加えた、中国を舞台にした異色作は、当時17カ月ものロングランを記録した。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2018年3月14日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります