無限の表情を秘める能面。面(おもて)と演目

能は、能面を身につけて行う一種の仮面劇。シテとツレの一部だけが面をつけ、ワキは面を用いない。能面の基本型は約60種あると言われている。ほとんどの場合、能面には役専用の面はなく、演目によって種類が決められている。ここでは、代表的な面とその面を使用する主な演目をご紹介。

更新日:2016/08/02

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小面(こおもて)

あどけなさの残るかわいらしい表情をした能面。若い女性の役を中心に、幅広い役で用
いられる。

(使用する代表的な演目)
『羽衣』(はごろも)

駿河に住む漁師の白龍。ある日三保の浦に釣りに出かけると、空から花が降り、心地よい音楽とよい香りの中で松の枝に掛けてある美しい衣を見つける。白龍は衣を持ち帰ろうとするが、そこへ天女が現れ白龍を呼び止める。羽衣がなければ天上へ帰れなくなると、天女が嘆き悲しむので、白龍は天上界の舞を所望。羽衣を身につけた天女は美しく舞い踊りながら天に帰って行く。有名な羽衣伝説に取材した長閑で清澄な作品。雄大な富士山を遠く望む駿河湾を舞台に舞う天女の美しい姿が印象的。

能

「国立能楽堂」所蔵

曲見(しゃくみ)

中年女性に用いる面。瞼や頬などに加齢の深みと
憂いが表される。

(使用する代表的な演目)
『隅田川』(すみだがわ)

京から人買いにさらわれてきた梅若丸という少年が、ここで儚く命を落とした…。隅田川の渡し守が船中の人々に語った哀れな話。その船にはわが子の行方を尋ね、物狂いとなって旅をする、まさにその母が乗っていた。船頭に導かれ少年の墓の前に立つ母。驚きと悲しみに打ちひしがれた哀切な念仏が響くと、その母の目に少年の姿が幻のように現れる。母は我が子を抱こうとするが、その姿は幻と消え、塚の上には茫々とした草が茂るばかりだった。多くの狂女物のなかで対面を果たすことのない唯一の作品。

能

「国立能楽堂」所蔵

般若(はんにゃ)

嫉妬と恨みから鬼と化した女性の面。目から下の部分からは激しい怒りを感じられるが、
目より上の部分からは深い悲しみが感じられ、面の上半分と下半分とで鬼女の心の二面
性を表している。

(使用する代表的な演目)
『道成寺』(どうじょうじ)

紀伊国、道成寺の釣鐘が失われてから時が経ち、釣鐘が再興され供養が行われることに。
その再興の日のこと、住僧は女人禁制を申し渡すが、そこへ白拍子の女が来て舞いを舞わせてほしいと寺男(能力)に頼み込み、供養の場に入れてもらう。女は乱拍子を舞いながら、隙をうかがって鐘に近づき鐘を落下させその中に消える。事の次第を聞いた住職は、それは怨霊の仕業に違いないと、道成寺にまつわる恐ろしい物語を語り始める。物語を聞いた僧たちは、鐘に向って祈ると鐘は再び上がり、中から蛇の姿に変身した鬼女が現れる。鬼女は炎を吐いて鐘を焼こうとするが、祈祷の力に負けその炎で我が身を焼き、日高川の奥深くへ姿を消していく。

能

「国立能楽堂」所蔵

中将(ちゅうじょう)

貴族や平家の公達の霊に用いる能面。平安時代の歌人・在原業平をモデルに作られたと
され、業平の別称「在五中将」からこの名が付いた。

(使用する代表的な演目)
『忠度』(ただのり)

自作の歌が『勅撰集』に載るようにと心を残し討死した平忠度(ただのり)。その亡き跡の桜の木蔭で、忠度の亡霊は朝敵ゆえに読人知らずの歌とされた無念を託ち、一ノ谷の合戦の様を語る。勇敢な戦い振りと潔い死に様。箙につけた短冊で姓名が知られ、亡骸に残された辞世の歌は敵将をも感動させる。一首の歌とともに散った平家の武将の悲しみ。世阿弥の修羅能の傑作。

能

「国立能楽堂」所蔵

白色尉/白式尉(はくしきじょう) 

「翁」(おきな)で、翁が天下泰平・国家安穏を祈って舞うときに用いる。笑いをたたえた
肉付きの良い老人の面。下顎が切り離され、ひもで結んであるのは、「翁」に使用する面
だけの特徴。面自体がご神体とみなされている。

使用する代表的な演目
「翁」(おきな)

能の演目の中で最も古く、神聖視されている特別な演目。翁の面を納めた面箱を持つ演者や囃子方、地謡が橋掛リから順に登場し、それぞれの役が着座すると、笛の独奏に続き3丁の小鼓が勢いよく打ち出し、翁の謡が響く。はじめに千歳(せんざい)が颯爽と舞い、その間に舞台上での「白色尉」の面をつけた翁が天下泰平・国家安穏を祝して荘重に舞う。翁が舞台から退場すると、三番三(さんばそう)が「揉み出し」という太鼓の打ち出しに合わせて立ち、躍動的に足拍子を踏みしめ力強く舞う。続けて三番三は「黒色尉」の面を着け鈴を振りつつ、はじめはじっくりと、しだいに急速に舞い納める。

能

「国立能楽堂」所蔵

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