「新しい東京・日本橋」特集の中のこと4

日本橋の名店のひとつ、中華料理店の「大勝軒」店内。お昼時は満席になります。親しみやすい接客もいい感じ

このページでは、毎号のオズマガジン制作の編集後記のような、こぼれ話のような、誌面に載せきれなかったサイドストーリーを編集部員が少しずつご紹介しています。今回はフクヘンのイノウエが担当します。「新しい東京・日本橋」特集が発売されて2週間と少し。おかげさまで多くの方に手に取っていただけているようで、本当にありがとうございます。

更新日:2017/11/29

「大勝軒」の中華そば650円は、シンプルイズベストと呼ぶにふさわしいメニュー。これを取材させてほしいとお願いしたところ「定番すぎてメディアに紹介することはあまりないんだけど、それもいいかもしれませんね」というお返事をいただきました

創業80年超。町の中華料理店にて

リサーチのために日本橋界隈をしらみつぶしに歩いていた僕は、お昼時、一軒の中華料理店に入りました。そのお店はこの町で80年以上愛され続ける「大勝軒」さん。お店の構えは、よく言えば昭和レトロですが、それ相応の年季です。

扉を開けるとほぼ満席で、ごく小さな4人掛けのテーブルに相席で通されました。向かいには並んで座る推定50代男性と、20代男性。なにせ会話は丸聞こえ、どうやらおふたりは会社の上長と部下のようです。

上長「僕はもうこってりしたラーメンは食べられなくてねぇ」。部下「そうなんすねー、やっぱ健康とか大事っすよね」。のような感じ。店内は9割方背広姿の男性で、わずかに女性がちらほら。カジュアルな服装の僕もやや異質な感じです。

ほどなく、注文した中華そばと半チャーハンのセットがやってきました。見た目は実にシンプル。でも、口にすると、とびきりおいしい!

”たまに食べたくなる普通の中華そば”、ではなく、野菜や煮干しでしっかりと出汁を取り、生醤油で味付けしたスープは、透明感の中に深いコクがあります。基本的には80年前から変わっていないそうですが、香味油でまろやかさを追加するなど、時代とともに少しずつアレンジしているそうで、おいしいわけです。

チャーハンのほうも、見事な半球体はもちろん、パラッパラなお米の具合といい、こちらもベーシックながら絶妙なおいしさ。繁盛しているわけです。

お向かいのふたり組も、同じく中華そばを満足げにすすっています。部下「シンプルでうまいっすね」。上長「だろ?」。妙に和みます。

そんな小さなドラマを見ていたら、今いるお客さん全員この味を求めてやってきた同志のように思えてきました。狭いし、相席だし、でもおいしいからまた来ちゃうんだよね。そんな声が聞こえてくる気がします。そしてリーズナブル!

ご家族で切り盛りしているということで、接客にもならではの温かみが。町の中華ですが、クオリティは日本橋の歴史に恥じないんだなぁと、静かに感動していると、会社員と思しき女性ふたり組が入ってきて、同じように相席のテーブルに座っていました。やっぱりみんなに愛されている。

日本橋にこの9月誕生した「THE A.I.R BUILDING」さん。築60年のオフィスビルをリノベーションし、1Fは誰でも入れるカフェに。ティーアーティスト伊藤孝志さんがプロデュースするLUVOND TEAやグルテンフリーのケーキなどがいただける素敵空間

町を作っているのは人

東京には中華料理店も、洋食店も、カフェもあふれかえっていて、おいしいお店も居心地いいお店も、数え切れないほどあると思います。ですが、それぞれのお店で流れる時間や、そこにあるドラマはすべて唯一無二のもの。

僕たちはオズマガジンでいろんな町を特集し、お店などのスポット情報をたくさん紹介していますが、その根っこにあるのは人だな、と思っています。お店を作る人もそうですし、そこにやってくるお客さんもそう。いろんな人が交わるなかで町ができているということを、取材のたびに実感します。

今回の日本橋で言うと、今はオフィス街の性格が強くビジネスパーソンがたくさんいます。と同時に100年以上続く老舗には、昔ながらの町人文化が感じられます。百貨店では様子のいいご婦人に、水天宮に行けば安産祈願と思しきご夫婦に、出会えます。

そんなベースを持った町に、カフェやバルなどができ始め新しい世代がやってきました。写真の「THE A.I.R BUILDING」さんは、NYなどにも暮らしたオーナーが「日本橋に遊び心を拡散したい」という思いで作ったスペース。今までの日本橋になかった新しいスポットで、ここでも新たな人の流れが生まれています。

今回日本橋を特集したのは、こんなふうに多様な人たちが集まるようになり町としてのおもしろさを感じたからです。大勝軒での一幕は、この町で繰り返されるいつもの風景のひとつでしかなくて、取材先それぞれでたくさんの物語を発見できました。誌面でもそんな多様性を出せたらな、と思いながら作っていました。

余談ですが、東野圭吾さんの小説「新参者シリーズ」や、「マスカレードシリーズ」の舞台も日本橋界隈ですね。作中でも描かかれていますが、この町には本当にいろんな顔があるので、日本橋になじみのある方も、ない方も、よりみちを楽しんでもらえたらいいなと思います。

「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」のスイーツたち。注目は、写真左下のケーキ「KUMO」1200円(黒い蝶はハロウィン限定仕様)。この独創的な造形もさることながら、味も絶品です

これからの季節にもおすすめです

そんなわけで、この特集でもたくさんのお店を紹介していますが、数えてみたら僕自身はこの中の50軒ほどに足を運んでいました。どれもおすすめなんですが、せっかくなのでこれからの季節に役立ちそうな情報をいくつかご紹介させていただきます。

特集の目玉にもなった浜町の「HAMA1961」というリノベビル。ここに入るパリのプロダクトブランド「PAPIER TIGRE」の日本初となる直営店では、文具を中心にした素敵な雑貨が揃うので、プレゼント探しにぴったり。ショッパーがオリジナルエコバッグなのも嬉しすぎるポイントです。

馬喰町の「NIHONBASHI BREWERY.」はクラフトビールが楽しめるお店。オリジナルのIPAなどあるので、ビール好きの方との忘年会におすすめします。最近、東京駅にも姉妹店ができました。

日本橋のホテル「マンダリン オリエンタル 東京」のグルメショップは秋にリニューアルし、新しいアイテムが続々。スイーツが絶品なので、パーティの手みやげなどに迷われたときはここに行けば間違いありません。

ハレの日だけでなく、普段使いにいいお店も目白押し。ありがちな言い方ですが、古いものと新しいものが共存する町(すなわち上長と部下が、なかよく中華そばをすする町)。それが、今の日本橋です。こうして思い返すだけでも楽しいなぁ。

ということで、みなさんのお役にたてたら幸いです。どうぞ、いい1日を。

OZmagazine 12月号「週末ひとり旅」特集

OZmagazine 12月号「新しい東京・日本橋」特集

発売日
2017年11月10日(金)
価格
593円+税
販売場所
全国の書店、コンビニエンスストア、駅売店などで発売
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