おもしろいこと、この地から。週 刊 東 北! Vol.012/福島に新しい1軒のカフェが生まれる日【後編】

週刊東北!

【毎週水曜 16:00更新】
オーガニックカフェ「ヒトト」が吉祥寺での9年間にいったんピリオドを打ったのが2016年1月。そして、9月30日に福島市へと場所を移し、新生「ヒトト」がオープン。全3回に渡り、生まれ立ての瞬間と、生まれるまでの時間を追っています。いよいよオープンを迎え、今回が最終話。なぜ今、福島なのだろう?そして、お店をつくるってどんなことなのだろう? (【前編/中編】はページ下部にリンクがあります)

更新日:2016/10/12

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この日は快晴。乾いた秋の風が気持ちよく通る中、それぞれが持ち場で準備。

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季節の野菜をオーブンでじっくりと加熱。お味噌汁からはなんとも落ち着くにおいが漂って。開店に向けて着々と準備が整っていく。

2016年9月30日、福島ヒトトの誕生の日。
午前10時30分、開店の準備に向けて。

 前日まで雨が続いていたという福島も、オープン初日を迎えた今日は秋晴れ。店内は、光と影のバランスが美しく、心地よい風が通り抜けていた。メインのテーブルをはじめ、吉祥寺のヒトトから譲り受けた家具やランプシェードと、新たにしつらえた、福島の落葉松を使用したカウンター席や、和紙に柿渋と鉄焙染を重ねた壁とが調和している。今日がオープンだというのに、真新しく張りつめた空気ではなく、すでに落ち着けるような雰囲気と唯一無二の空間ができあがっている。

 キッチンを担当する千葉夢実さんと藁谷志穂さん、そして店長であり接客を担当する大橋祐香さんの3人に加え、今日は東京スタッフのサポートもあって心強い。3人は少し緊張した面持ちで、それぞれの持ち場で粛々と準備を進める。野菜を洗う水音、トントンと野菜をリズム良く刻む音が柔らかく響いている。ご飯が炊き上がり飯台へと移すと湯気が上がり、お味噌汁からはホッとするにおいが漂う頃、BGMが流れ始めた。音や匂い、温度や気配がひとつずつ加わり、空間が徐々に立体的になっていくよう。


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開店時刻を迎え「お待たせいたしました。いらっしゃいませ」。大橋さんの声を皮切りに、お客さんが店内へ。

12時、開店。はじめまして、ヒトトです。
「いらっしゃいませ!」

 いよいよ開店時間。準備も整って「開けますか!」という東京組の声に、3人は視線を合わせ「はいっ」と力強く頷く。

「いらっしゃいませ」のお辞儀と共に迎えたひと組目のお客さんは、1時間も前から並びオープンを心待ちにしていた、お母さんと小さな女の子。近隣で働いている上司と部下らしき男性の2人連れや、女性の1人客、2組の家族連れのお客さんと続き、年齢も立場もさまざまな人々であっという間に満席に。
 
 お客さんのあたたかい期待感が店内に漂い、おしゃべりも加わって、さらにお店の温度が上がっていく。まるで命が吹き込まれたみたいに、お店が息をして動き始めたよう。



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店内のすみずみまで興味深げに眺め、お料理を味わう。それぞれに待ち望んだヒトトを満喫しているよう。季節のお野菜のカレーは900円。

 食事メニューは、本日のおかず3品とごはん、お味噌汁と三五八漬け、あたたかい三年番茶からなる「ヒトト定食」と、キーマカレーにお野菜のオーブン焼きをトッピングした「季節のお野菜カレー」の2種、そして本日のお菓子とドリンク類。種類こそ多くはないけれど、どれも素材を作る現場から彼女たちの目で見て選び、丁寧に作っている。

 定食のおかずの1品である、車麩のカツは、吉祥寺ヒトトから譲り受けた、いかにも年期が入っている鉄鍋でカラリと揚げられ、食べ応えも充分。男性客もにこやかに頷きながらほおばっていた。季節野菜のグリルや季節のお野菜カレーに使われている野菜は、喜多方で30年以上循環型の農業に取り組む「大江ファーム」や、猪苗代湖のほとりで伝統野菜を作っている「のうのば」など、親交の深い農家さんが育てたもの。彩りも豊かで、オーブンで皮ごと焼かれ甘さを増している。

 料理にあしらわれた季節の緑や、折り目正しく盛りつけられた三五八漬けからは、真心が伝わってくるよう。食事を終えて、店を後にする人々は皆一様に、空腹以上の何かが満たされたような良い顔で帰って行く。

 ランチのピークを超えた後も客足は途切れず、千葉さんはカツを揚げるためにコンロの前に付きっきり、藁谷さんはごはんとお味噌汁の前を定位置に、大橋さんは穏やかな笑顔で接客を。みんな、それぞれの持ち場をまっとうするために集中した。


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閉店後、仕込みをしながら今日までの日々を振り返って。千葉さんのノートには、お店や料理にまつわる気づきがぎっしり。19時45分頃、この日不在だったオーナー兼マネージャーの奥津爾さんからお店に電話が入った。「お疲れ! オープンできて良かったね。みんなにけがはなかった?」。バトンは、すでに3人の女性へと引き継がれていた。

19時、閉店。
今日までの日々と今日を振り返って。

 大盛況の中、初日を終えた3人の顔はすがすがしかった。この日、お店へと向かいながら大橋さんの頭の中にはいろいろな人の顔が浮かんでいたという。「奥津さんを筆頭に、内装を手掛けて下さったゾエンの蓑田真哉さんや、壁を仕上げて下さった和紙職人のハタノワタルさんを含め、力を貸して下さったたくさんの方々がいて。今日を迎えられたことへの感謝の気持ちでいっぱいで」。

 会津で営んでいた自身の店を閉めてヒトトに加わった千葉さんは「頑張ってきなさいって、背中を押すように送り出してもらった。期待に応えたいという気持ちが自分を強くしてくれています。私たちは伝えたいことが多いんです。顔の見える農家さんとのお付き合いがあるからこそ、お客様にも素材にも興味を持ってもらえたら」と話す。

 キッチンに立っていた藁谷さんは、「お客様の列が長くなったり、カウンターからの視線を感じると、余裕がなくなってしまって。自分の焦りが味に出てしまう。これからの私の課題です」。



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翌朝は開店初日より、さらに青空がまぶしかった。ニューヤブウチビルの看板に「食堂 ヒトト」が仲間入り。屋上は藪内さんの声掛けに集まった何人ものクリエイターの手が加わり魅力的なスペースに。今後の構想が広がる。

10月1日、ヒトトに再び朝がやってきた。
これから、この町の「台所」として。

 2012年から奥津さんは福島の土地や人との親交を深め、2015年、福島という町にヒトトの種は蒔かれた。そして2016年2月、いよいよ正式に契約を交わすという日に彼は、ビルのオーナーであり、出店を願い出たLIFEKUの藪内義久さんに、「向こう20年間よろしくお願いします」と言ったそう。開店して実際に福島の人々を迎え入れたこの秋、「ここを福島の台所にしたい」、奥津さんの言葉が現実となっていく。

 ヒトトは食堂であり、カフェでもあるけれど、なによりも、人の健康を支え、エネルギーを満たす、活気に満ちたお店をめざしているのだろう。今日もまた、ごはんの湯気が上がり、お味噌汁の匂いがあたりに漂う。そして、福島のヒトトはこれからもここにある。



【今週出会った、東北の素敵な場所】食堂 ヒトト

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オーガニックカフェ「ヒトト」が吉祥寺から福島市へと場所を移し、9月30日にオープンを迎えた。

TEL.024-573-0245 
福島市大町9-21 ニューヤブウチビル3F
営業 12:00~19:00 火定休 
アクセス/JR福島駅より徒歩13分

※ 10/15(土)にはLIFEKUメンバーの各店舗が会場になる「本」テーマのイベント「BOOK BOOK BOOK TRIP」が開かれ、ヒトトは屋上で旅をテーマにした軽食と飲み物を提供予定。19:30~20:30にはエッセイスト・酒井順子さんと編集者・高橋亜弥子さんのトーク「本を旅する」も開催。

WRITING/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA(roku)

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