OZmallが贈るクリスマスストーリー第2話「思えばいつも、隣には彼がいた。」

クリスマスホテルストーリー

女性サイト「OZmall」が贈る、ホテルで繰り広げられるクリスマスストーリー。遠距離恋愛、幼なじみ、運命の出会い、逆プロポーズなど、クリスマスを前に、さまざまな男女に起こるホテルでの“4つのショートストーリー”をお届け。

更新日:2016/11/22

【第2話・後編】突然届いた衝撃のメッセージ。「別に、大丈夫だもん・・・」涙の理由は?


    ― ごめん・・・やっぱり行けない。俺、来年結婚するわ。



頭が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかった。
ドクンドクンと脈が波打つ音と振動が脳内に響いて、直接言葉をかけられた訳でもないのに耳を塞ぐ。


何それ。


勝手に期待してしまっていた分、落胆が自分の想像を超えてしまって、わたしは抱えきれない感情に支配された。
さっきシャワーを浴びたばかりなのにバスルームに駆け込んで、クラシックなゴールドを纏った蛇口を思い切りひねる。

会えなくて想った時間も、一緒にいて幸せを感じた時間も、全部全部洗い流したい。ピンク色をしたバスソルトをバスタブにザラザラと流し込む。お湯に溶けて小さくなっていくこの一粒一粒が、あの人に関するわたしの記憶だったらいいのに。


「別に、大丈夫だもん・・・」 


ぶくぶくとお湯に顔を半分沈めると、まるでバスタブいっぱいのお湯が自分の涙に見えてきて、どうしようもなく惨めでまた泣けた。

バスルーム

お風呂から上がると、わたしは半ば無意識的に、そして衝動的に、唯一の男友達であるあいつに電話をかけていた。


「ふられちゃった」


わたしがそれだけを言うと、彼はわたしにホテル名を聞き『とりあえず行くよ』と落ち着いたトーンでわたしをなだめた。

男に振られて別の男に慰めてもらうなんてなんだか嫌な女だなぁと思ったけれど、とにかく誰かに甘えたくて「うん。待ってる」と言ってしまった。

均整の取れたデザインとシャンデリアの豪華さがちょうどよい心地よさを生み出しているロビーに下りる。

赤いクッションが目印になりそうだったので、ダークブラウンのソファに腰掛けてあいつを待った。


『ーー・・・』



わたしの名前を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、あいつがいて妙な安心感に包まれる。

急いで来たのか、息が少し上がっているようだった。

いつもお前と言うくせに、こういう時だけ名前で呼ぶ。

そうしていつも、わたしの好きなミルクティー缶を頬に当てるのだ。

自分の体温に缶から伝わる液体の温かさがじんわりと侵入してきて、それに比例するかのごとく寂しさがここぞとばかりに溢れ出てくる。けれど不思議と、もう涙は出なかった。


先輩のことが、人のものだから欲しかったわけじゃない。

今夜曖昧な関係に終止符を打って、ついに肩書きが手に入って・・・未来に先輩の隣にいるのはわたしかもしれないなんて、少なからず期待していた。

それくらい、わたしの目に映る先輩は、わたしだけを見てくれていたから。


だけどわたしは相変わらず馬鹿だ。


一緒にいる時の甘さや優しさなんて全部、2人の時間をお互いにとって気持ちよくするための先輩の気遣いであって、むしろ責任感のない「好き」が、演出のしやすい環境を作り出していた。

そういう嘘の付ける人だってこと、最初はわかっていたはずなのに。

最後はそんな表面的な“オモテナシ”に浮かれてひとりで舞い上がっていたなんて、まったく後味の悪い顛末だ。

冷静になって思い返すと幸せだったはずの先輩との記憶は全て凶器のように変形してわたしに突き刺さり、なけなしのプライドがズタズタに傷付いていくようだった。


『なぁ、覚えてる?高校の時も、お前くだらない男に振られて俺に電話してきたよな』


わたしが渋い顔をしていると、幼なじみのあいつは唐突に昔話を始め、ホント男見る目ねーなー、と自分に買ったブラックコーヒーを飲む。言い方には腹が立つけど、今はこの押し付けない優しさが身に染みてありがたい。


『でも、ごめん。お前がブサイクな顔して泣いてたあの時もそうだけど・・・今も、一緒に悲しんであげられない』


「は?」


2つ悪口を言われた気がして彼を睨むと、ばつの悪そうな顔で言った。


『・・・お前のこと好きだから』


「え?ちょっと・・・」


『卑怯かもしれないけど、20代最後だし・・・チャンスと思って言っとく・・・』


笑みの消えた真面目な顔でポツリポツリとそんなことを言うから、一瞬いつものわたしたちとは違う真面目な空気になってしまう。

すると時を移さず、その妙な緊張感を追い払うように彼は口角を上げて悪戯に微笑んだ。


『ま、お前の気持ちは今度またゆっくり聞かせてもらうわ』


じゃあな、と手をヒラヒラ振り立ち去ろうとするので、わたしは思わず「ねぇ!」と背中に向かって呼び止める。


「部屋、来る?」


一方的にドキドキさせられたのが悔しくて、仕返しとばかりの精一杯の冗談だった。


『はぁ?いかねーよ』


彼はそんなことを言いながら、耳まで真っ赤にして足早に去ってしまった。



なんなの、30歳を目前にして、この甘酸っぱい展開は・・・



失恋の風に乗って、ついに白馬に乗った王子様が駆けてきたのかもしれない。
正体はまさかの幼なじみだったけど、こんなのも悪くないと思い始めている自分がいた。

Next Story「危険かもしれない。けど、やめられない。」

恋愛とはご無沙汰のアラサー女子。自分を甘やかしに度々訪れるホテルのバーである男性に出会い・・・。

WRITING/RIO HOMMA(OZmall)

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