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迷って見つける恋するトキメキ


 
まず、人の多さ。世の中ってこんなに人がいたのか! どこを見ても人、人、とにかく人。しかも驚くことに知った顔がひとつもない! これが田舎だったら、たとえどんな大勢の人ごみであろうと「あ! 畳屋のおっちゃんだ!」とか「あ! 八百屋のおばちゃん、こんにちは!」とか絶対に知り合いに会うはずなのだ。なのに、全然まったく見たこともない人ばっかり! 目をまん丸にしてるうちにそれがぐるぐる回り出し、私は気持ち悪くなってしまった。  次に私を襲ったのは冷房だった。初めてじゃなかったとは思う。デパートとかで経験はしてるはずなのだ。でも冷房なんてホントなじみがなかった。だって夏は暑くて、座ってても汗ダラダラかくのが当たり前だしさ、冬はコタツでまん丸になるのが当たり前だったんだもん。だからもう、電車でもバスでも冷房独特のあの人工的な風が吹いてくると、もうそれだけでダメ。また当時はガンガンに冷房効かせりゃそれだけでちょっと贅沢みたいな感覚もあったから、だからもう電車の中もギンギン、宿泊してる旅館もギンギンに冷房が効いていた。すっかり冷房病になってしまった私はひとり、あまりの寒さに室内にいることができず、窓を開けベランダの外に座布団を敷いて蚊に刺されながら眠れぬ夜を過ごした。その情けなかったこと。もう早く富山に帰りたくて帰りたくて、都会はいやだとつくづく思ったものだ…。
 それに比べるとうちの亭主はさすが東京っ子ですよ。きっとお父さんが、万博をきっかけにいろんなことを体験させてくれようとしたんだね。東京から大阪に行くんなら、普通東海道新幹線でしょ、往復。それだって当時は夢の超特急だよ、新幹線に乗ったことない人なんて山ほどいたんだから。私なんて大学に入ってからだよ新幹線なんて! それなのになんと、新幹線は帰りだけ、行きはなんとなんと、飛行機だって! 私は必死で聞いてみた。「初めて乗ってどんな気持ちだった? 昔からスープとか出た? スチュワーデスのお姉さんはきれいだった?」。するとうちの亭主はいいました。「それがよー、興奮しすぎてボーっとしちゃったのかなぁ、なあんにも覚えてねぇんだよ。新幹線に乗ることになったいきさつとか、そのあと乗った御堂筋線しか覚えてねぇんだよなー」
 アッハッハッハ! そーかー! そーゆーもんだよねー! 子供なんてサー親がどんなに頑張って贅沢さしてやってもさ、体に合わなかったり緊張しすぎて忘れちゃったりさー、勝手なもんよねー。ちなみにうちの亭主は万博の中身も興奮しすぎてろくに覚えておらず、ただただ帰りたかっただけらしい。
 え? 最初の話とずいぶん違う? いーのーいーのそんなもんなの、万博の記憶なんて。どうせ子供のころの記憶なんて立派なものなんてろくにありゃしないの。ただ、万博って意気込みがあるだけで、ただの思い出が強烈な思い出になっていく、そこがすごいの。平凡な日常生活の中で、キョーレツな出来事ってあんまりないんだからさ。こういう、国中をあげてのお祭り騒ぎのときぐらい、一緒に盛り上がろうよ。
     

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