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私の場合、そっちの心配はいらないとして(いや、万が一そういう状況に遭遇したとしたら、私はなんとか自力で切り抜けますよ、大人なんだから)、とにかく、着崩れにどう対処するかなのだ。さっきもいったように着物は、曲線でできている肉体を、直線でできている布で包み、これも直線でできている紐を巻きつけて着つけるものである。どう考えても、立体裁断の洋服に比べると着崩れてくる確率は大。ていうか、ずっときちんと着ているなんて最初っから無理なのだ。無理を重々承知で、われらの先祖が考案した着物の着つけは、これがなかなか理論的にできている。襦袢の襟がたるんだら裾をめくって、こことここをこのように引っ張る、とか、襟を少し抜くときは、これとこれを一緒に持ってこう引っ張るとか、ちゃんと理屈どおりになっている。そのつぼさえ覚えれば、かなりきれいに着続けられるのだ。そのつぼはどうやって覚えるのか、それは経験あるのみなんだよねー。しかもそこをどのくらいの強さで引っ張るか(つまりギュッ、なのかギューッなのか)これも実に微妙、すべてのさじ加減はほどほどだ。
テキトーだと崩れちゃうけど、ギュウギュウに締めつけちゃうとかえって壊れる。なんか着物の着つけって、男と女の関係みたい。なんか似てない? 最初から無理とわかっていながら折り合いをつけていくとことか、その力加減とか。それともこの感覚そのものが日本の文化なんだろうか。微妙な「間」とか「気」とか、もちろん「わびさび」なんて、西洋にない独特の感覚だもんね〜。そうかぁ、伝統的工芸技術だけじゃなくて、そんなすごいもんなんだ、着物って!
さて、着物姿で飲みに出かけた私、そりゃやっぱり日本酒でしょう。ということで、ふぐに行きましたよ。ふぐといっても料亭じゃないよ。老舗は老舗だけど、新宿はアルタのならびにある、こぢんまりして古きよき東京の香り漂う昔かたぎの親父さんの店。大好きな店。いつものように始まったけど、なんとなく落ち着かない私。帯に手を突っ込んだり襟元に手をやったり、やっぱ着慣れないというのはそれだけでカッコ悪い。でも、そのうちだんだんわかってきたね、楽な姿勢が。正座して背筋伸ばすこと。これが一番苦しくない。一番苦手な姿勢が、実は一番楽だったなんて! よしよし、やっぱ勇気出して着物で飲みに来たかいがあった。と、思ったのも束の間、やっぱり帯、ほどけてきちゃった。あ〜あ、覚悟の上とはいえ、やっかいなことになっちゃった。と思ったら、店の仲居さんが「あら、帯崩れちゃった? じゃ直してあげる」と、ちょちょいのちょい。あっという間だよ。 「近ごろは洋服着てるけど、昔は着物だったからね」
年上の女性ってやっぱすごいわ。まだまだ私はけつが青いでござるよ。困ったときはお姉さんに聞け。やっぱ人生の先輩は頼りになる。なんか、そんなに頑張っちゃわなくてもいいみたい。困ったときは素直に先輩に頼ろうよ、意外なところにエキスパートがいるもんよ。ということで、みんな安心して、書を捨てよ着物で飲みに行こう、なのでした。
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