恋する歌舞伎

歌舞伎『夏祭浪花鑑』を現代風に解説。男の義侠心のぶつかり合い。闇と祭りの喧騒に消えたのは・・・

第34回 恋する歌舞伎は、『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2018/05/18

恋する歌舞伎:第34回『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』

夏祭浪花鑑

【1】一本気な男がシャバに出る!むさい男も床屋で大変身

魚屋の団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)は、大鳥佐賀右衛門(おおとりさがえもん)の中間(※)と喧嘩の末、怪我をさせた罪で入牢していた。妻のお梶(おかじ)が、旧主の玉島家に夫の釈放を頼んだところ、奥方に「息子の磯之丞が国許へも帰らず放蕩三昧をしているので連れ戻してほしい」と条件を出されてしまう。お梶は徳兵衛(とくべえ)という男たちを使い「遊んでいるとやがて身を滅ぼしかねない」と思わせる芝居を磯之丞のそばで演じさせ、家に帰るよう仕向けることに成功した。そのおかげで、団七は放免となったのだ。

数日後、大阪住吉神社の鳥居前。お梶、息子の千松、世話になっている釣船の三婦(つりぶねのさぶ)の3人が、出牢する団七を迎えるために待っている。そこへ牢獄暮らしの末、髭はぼうぼう、月代(さかやき)は伸び放題の団七が役人に連れられてきた。家族との対面を喜ぶも「そのむさ苦しい姿では」と髪結床へと促される団七であった。

※主人の身のまわりの雑務をする最下級の武士

夏祭浪花鑑

【2】喧嘩の直後に生まれた、熱い男の友情

そこへ磯之丞の恋人・琴浦(ことうら)が通りかかる。彼女は以前から佐賀右衛門につきまとわれ、今も無理やり捕まえられそうになっている。それを引きはがしたのは、床屋でさっぱりし粋な姿の団七。佐賀右衛門を懲らしめたついでに磯之丞の居場所を伝え、琴浦をそこへ向かわせるのだった。

その場を立ち去ろうとした団七だが、柄の悪い男たちに喧嘩を売られ一触即発となる。あわやのところで妻のお梶が仲裁に入り難を逃れたが、相手の顔を見るとあの徳兵衛だった。芝居を打ってくれた褒美に金も着物もあげたばかりではないかと諭すお梶。面目ないという徳兵衛だったが、よくよく話すと彼も磯之丞の主人に恩義があることがわかる。団七とともに磯之丞の世話をすることを誓い、2人は片袖を交わして義兄弟の契りを結ぶのだった。

夏祭浪花鑑

【3】意気地を見せるのは男ばかりではない。灼熱の熱さも耐える堅い女の意志

外では賑やかな祭り囃子が響く中、三婦の家では磯之丞と琴浦がかくまわれている。なんと磯之丞は、奉公先で人を殺めてしまい、人前に出られない状況になってしまったのだ。

そこへ徳兵衛の女房・お辰(おたつ)が訪ねてくる。田舎へ帰省するという彼女に、三婦の女房・おつぎは磯之丞をこっそり連れ出してほしいという。磯之丞の親に義理のあるお辰は快諾するが、三婦は難色を示す。なぜかと聞くと、「お辰の顔には色気がある。若い男女になにかあっては困る」というのだ。それを聞いたお辰は、突如、火鉢にあった鉄弓を自分の顔に押しつける! なぜそんなことをしたのかと聞くと「美しいというこの顔が醜くなれば磯之丞を預けられない理由がない」というのだ。その心意気に感心した三婦は、磯之丞をお辰に託すのだった。

夏祭浪花鑑

【4】軽快な祭囃子にのせられるかのように起こった衝動殺人。舅殺しの罪は重い。

おつぎが1人で留守番をしていると、団七の舅・義平次(ぎへいじ)が駕籠を伴いやってくる。なんでも「団七に頼まれてやってきた。琴浦を引き渡して欲しい」というのだ。その言葉と偽の手紙を信じたおつぎは、琴浦を呼び出し駕籠に乗せてしまう。

しばらくして団七らが帰ってくるので事情を話すと、それは悪知恵の働く義平次の作り話だと、血相を変えて駆け出していく。なんとか追いついた団七は、琴浦を返してほしいと舅に頭を下げる。しかし義平次は聞く耳を持たないどころか、日頃の鬱憤を晴らすかのように罵声を浴びせる。なにを言われても堪え、懇願するもののらちがあかないので、団七は石を懐に入れ「ここに三十両がある。金と引き換えに駕籠を戻してほしい」と頼む。三十両という金に釣られた義平次は、それならばと琴浦の乗った駕籠を戻すことにする。しかしそれが嘘だとわかると、たちまち激昂し団七の眉間を雪駄で打ちつける! それでも我慢をしていたが、義平次の挑発が加速しもみ合う打ちに、誤って舅を斬ってしまう。はずみで傷つけてしまったはずが、気持ちが高ぶったままの団七はとどめを刺し、舅・義平次は息絶える。悪い人でも舅は親。我に返った団七は懺悔をし、だんじり囃子の喧騒の中へ消えていくのだった。

『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』とは

並木千柳・三好松洛による合作。人形浄瑠璃で延亭二(1745)年七月大阪竹本座初演。歌舞伎では同年八月京都万太夫座初演。全九段。大阪高津神社の夏祭を舞台に男伊達の気質、夏の風俗を描いた芝居。団七が舅を殺す長町裏の場は「泥場」ともいわれ、本物の泥や水を用いられる。祭囃子が響く暗闇の中、裸身に彫物、真っ赤な褌、ざんばら髪という出で立ちで数々の見得をする、団七の視覚的な美しさも印象的である。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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