恋する歌舞伎

ただの“鬼退治”として語れない、哀しき鬼女の物語

第44回 恋する歌舞伎は、歌舞伎座『四月大歌舞伎』で上演予定の「黒塚(くろづか)」に注目します!
日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2019/03/20

恋する歌舞伎 第44回
『黒塚(くろづか)』

黒塚(くろづか)

【1】寂しいあばら家にいたのはちょっと不気味な老女

ここは奥州安達ヶ原。見渡す限り芒(ススキ)が生い茂り、静寂に包まれている。そこにやって来たのは、修行のために諸国行脚をしている阿闍梨祐慶(あじゃりゆうけい)ら、三人の僧侶と、強力(ごうりき※)・太郎吾(たろうご)。
今日はすでに日も暮れたため、この辺りで一夜の宿を求めることにした。しかし一帯は人影もない芒の原。歩き続けるうち、ようやくたどり着いたのは一軒の荒屋だった。
僧侶たちが外から声をかけると、なんとも不気味な雰囲気のお婆さんが出てくる。岩手(いわて)というその老女は、この朽ち果てた家で一人暮らしをしているという。祐慶らの願いは聞き入れられ、一行はこの老女の家の内へと招き入れられるのだった。

※荷物を背負って案内する者

黒塚(くろづか)

【2】心が通いあったかのような旅人たちと家の主。しかし去り際、意味深な言葉を残して・・・

部屋に通され、岩手と少しずつ話をする内に、祐慶は傍らの糸車を見つける。皆々がそれを珍しがるので、岩手は糸繰り唄を歌いながら糸を繰ってみせるのだが、次第に老女は泣き始める。訳を聞くと、岩手はもともと都に住んでいたが、父が流罪になり奥州へ下ることになった。さらに夫に見捨てられ一人きりになってしまった。彼女は人を憎み、やがて生きる望みも無くし、この寂しい家で一人過ごしているのだという。そんな老女に祐慶は「仏の教えによって、すべての罪科も消滅するでしょう」と諭す。岩手はその言葉に希望を見出し、心が晴れた様子。そして、暗くならないうちに一行のために薪を取りに出かけてくるという。その際「決して閨(ねや:寝室)の内をみてはいけない」と言い残していくのだった。

黒塚(くろづか)

【3】みてはいけないものを見てしまった旅人たち。彼らの身が危ぶまれる

見てはいけないと言われると余計に見たくなるのが人間の性。とうとう堪えきれなくなった太郎吾は、閨に何があるのかと見に行ってしまう。
やがて聞こえたのは太郎吾の悲鳴だった。なんと閨の内には人骨が散らばり、あたり一面、血の海・・・!実は、安達ヶ原には人を喰う鬼女が出現するという噂があった。この老女こそ、噂の人喰い鬼だったのだ。

一方、山へ薪を拾いに出かけた岩手は、月明かりに照らされ踊り始める。祐慶の「罪を悔いて仏の教えに従えば、来世は必ず成仏する」という言葉を思いだし、希望を見出したのだ。月の下で踊る岩手は、まるで童女に戻った心持ちに見える。

黒塚(くろづか)

【4】単純な鬼退治では終われない、鬼女と僧侶たちの対決

岩手の穏やかな時間もつかの間。太郎吾が必死の形相で駆けてくるのが見える。その様子から、閨の内を見られたと覚った岩手。徳の高い人間でさえ、約束を守らないという現実に深い哀しみを覚え、怒りがこみ上げ、遂には鬼女へと変貌するのだった。
祐慶らも後を追ってきて、芒の原の中にある塚にたどり着く。その塚の中から現れたのは、鬼女と化した岩手。祐慶たちに襲いかかかってくるので、一行は数珠を押し揉んで、祈りをあげる。やがてその法力で鬼女の力も弱まり、とうとう姿を消すのだった。

果たしてこの結末を「高僧たちが人喰い鬼を退散させた」と一言でいえるだろうか。壮絶な過去によって、鬼と化しながらも何処かに悩みを抱え、孤独の中にも希望を探していた岩手。彼女は今もどこかで光を求めているのかもしれない。

猿翁十種の内 「黒塚(くろづか)」とは

木村富子作。四世杵屋佐吉作曲、花柳寿輔振付。昭和14(1939)年11月東京劇場初演。能の様式が取り入れられる第一景、新舞踊の形式の第二景、歌舞伎の手法を用いた第三景という構成。第二景には初演時に岩手を演じた二世市川猿之助(後の初世市川猿翁)が海外で見たというロシアンバレエの技法を取り入れられている。

2019年 『歌舞伎座四月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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