恋する歌舞伎

重い荷を負う男たちの攻防戦。はりつめた心理戦の決着は!?

第45回 恋する歌舞伎は、今回は歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』で上演予定の「勧進帳(かんじんちょう)」に注目します!
日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2019/04/22

恋する歌舞伎 第45回
『勧進帳(かんじんちょう)』

勧進帳(かんじんちょう)

【1】悲運のヒーローの逃避行。各所には手強い敵が待ち受ける!

源義経は源平合戦で功績を上げ、源氏を勝利に導いた。しかし兄・頼朝から「反逆の意思があるのではないか」と誤解を受け不和となり、とうとう都を落ち延びることになったのだ。
義経は奥州を目指し、家来を伴い出発する。そのリーダー格の男・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)は、指名手配になっている身の上なのだから、変装をして関所の関守の目をくらまそうと計画。主人・義経を畏れながら強力(荷物持ち)に、弁慶らは山伏の格好で安宅の関を通過しようと試みる。
一方、待ち構えていた関守・富樫左衛門(とがしのさえもん)もなかなか手強い男だった。怪しい者は端から捕らえると意気込んでいる。

勧進帳(かんじんちょう)

【2】頼れる家来は体も大きく懐も深い。しかし敵もなかなか侮れない男のようで・・・

いよいよ安宅の関を通過するときがきた。弁慶は落ち着きはらった様子で「東大寺を再建するための勧進の山伏です」と何食わぬ顔で通ろうとする。富樫は「勧進の山伏ならば、勧進帳を持っているだろう」と食ってかかる。勧進帳とは、寄付を募るための趣意書のようなものだが、もちろん弁慶はそんなものは持っていない。しかし全く動じる事なく、巻物を取り出し勧進の目的などを朗々と読み上げるのだった。もちろん、この巻物は偽物で東大寺再建に関することなど何も書いていない。しかし弁慶は機転をきかせて、あたかも勧進帳を読み上げるように演じてみせたのだ。そして本物の修験者ではないとわからないような質問にも次々に答えるのだった。

勧進帳(かんじんちょう)

【3】相手の心を一瞬で打ち砕くような、予想外の行動とは一体?

富樫は感心し、一行の通過を許可するとだけでなく勧進の品として袴や黄金などの寄付の品々を差し出す。弁慶は「自分たちは旅の最中であるゆえ、かさばるものは帰り道に取りに立ち寄ります」と抜かりのない対応をする。そして早くここを立ち去ろうと先を急ぐのだった。
しかし様子をみていた富樫の家来が、「荷物持ちの男が怪しい」と耳打ちする。それを受けた富樫は全力で一行を止めるが、そこで弁慶は驚きの行動に出る。「お前がモタモタしているから疑われるんだ!」と主人に向かって言い放ち、あろうことか、杖で義経を思い切り打ち付ける・・・。
この様子を見た富樫は、この強力が義経であると見抜いていたものの、主人を命がけで守ろうとする弁慶に心を打たれ、関の通過を許してしまう。

勧進帳(かんじんちょう)

【4】命を賭けた心理戦。決して曲げない信念を持った男に道が拓かれる

無事に関を超えることができた義経一行。弁慶は義経に「死んでお詫びをしても償えないほどのことをしてしまった」とひれ伏し涙する。義経は、弁慶の機転によってこの難所を切り抜けられたと皆の前で褒め称える。そして、自分たちの身の上を嘆き打ちひしがれるのだった。

するとそこへ、またしても富樫が現れる!警戒をする一行だったが「先ほどの無礼を詫びに酒を持ってきた」というのだ。弁慶は心を緩めた様子で、酒をどんどん飲み干し、自分の恋愛体験談まで話し始め、ついには踊り出す。この宴の喧騒に紛れ、主人を先に行かせようという考えがあったのだ。
義経一行の通過を許してしまった富樫は、死罪を免れないだろう。敵の心をも動かす弁慶のあつい忠義心は、今でも語り継がれる。

歌舞伎十八番の内「勧進帳(かんじんちょう)」とは

三世並木五瓶作、四世杵屋六三郎作曲。天保11(1840)年3月江戸河原崎座初演。「歌舞伎十八番」の一つ。能の『安宅(あたか)』を原作とした松羽目物。当時武家社会と密接に結びついていた能の要素を、庶民の娯楽であった歌舞伎に取り入れたこと、更には能舞台を模した舞台美術を用いるなどはかなり画期的なことであった。初演以降代々の團十郎がブラッシュアップを重ね観客の支持を集め、歌舞伎の代表的作品となり現在に至る。

2019年 『歌舞伎座團菊祭五月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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