恋する歌舞伎

激変の世の中で芽生えた“豚姫”と西郷さんの恋の行方は⁉

第47回 恋する歌舞伎は、七月歌舞伎座で上演予定の「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2019/06/21

恋する歌舞伎 第47回
「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」

「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」

【1】愛されキャラ的存在の豚姫。しかし最近は恋わずらいにかかっていて・・・

ここは幕末の京都。世の中は勤皇派と佐幕派に分かれて争い、不穏な状態が続いている。
三本木にある揚屋(遊郭)で仲居として働くお玉の愛称は “豚姫”。その恰幅の良さと優しさで誰もから好かれ、親しみを込めてそう呼ばれているのだ。そんな明るく陽気なお玉だが、最近はめっきり元気がない。彼女の想い人である、薩摩藩の西郷吉之助(さいごうきちのすけ)が店にやってこないからだ。芸妓の岸野は、お玉がふさぎ込んでいる原因を察し、耳にした西郷の近況を話す。どうやら西郷は主君の怒りに触れ、謹慎状態らしい。そんな岸野も、恋人との仲がうまく行っておらず酒を飲んで気を紛らわしているのだった。お玉は酒で気を紛らわせる彼女の姿が羨ましく映り、死にたいとまで思うほど西郷への想いが募るのだった。

「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」

【2】会いたい人が、命を狙われ逃げてきた!嬉しいやら心配やら・・・

そこに突然、西郷が現れる。喜ぶお玉であったが、彼は幕府に雇われた刺客に襲われ、店に逃げ込んできたという状況だった。お玉が不安になっているところに、続いてやってきたのは中村半次郎という男。半次郎は西郷を襲った刺客を斬り捨てたという。更には薩摩藩の藩主が、勤皇倒幕を唱える西郷に切腹を命じようとしているというのだ。西郷はこれを聞き、幕府と藩主の両方から憎まれる孤独な身の上を憂えるのだった。
お玉が奥へ行くと幕府の者が現れ、刺客を斬った半次郎を差し出すよう要求される。素知らぬ顔をするお玉に腹を立てた男たちは、彼女を引っ立てようとするが、西郷に一喝されすごすごと去って行くのだった。

「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」

【3】うたた寝中の彼に大きな握り飯を作る健気さ。決死の思いで告白すると・・・

ようやく落ち着いた西郷は、急に眠くなったといい、お玉の傍らでうたた寝をしてしまう。お玉はその寝顔を眺めながら、自分の悩みなど、西郷の抱える苦悩とは比べものにならないと実感する。
しばらくして西郷が寝ている間に、大きな握り飯を作ったお玉は、西郷を揺り起こす。西郷は豪快に起き上がり、その体格に似合いのおにぎりに手を伸ばしお玉をじっと見つめる。そしてその表情を見て、お玉に死ぬ覚悟があることを覚るのだった。
お玉は、親と死に別れ、貧しい暮らしで幼い頃から奉公に出た生い立ちを語り、西郷への思いを打ち明ける。

「西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)」

【4】死を決意した二人。しかしその直後に事態は急変!一人残された豚姫は

実はお玉は、密かに自分の身の回りのものを何もかもつぎ込んで、西郷たちの資金を調達していた。西郷はそのことを知り、その優しさに感謝をする。そして時代を変えられることができないと絶望したこともあり、日頃から尽くしてくれるお玉と一緒に心中しようと決意する。
やがて二人が鴨川に向かおうとすると、大久保市助がやってきて、西郷の言葉によって藩論が勤皇と決まったと告げられ「江戸へ降るように」との命令があったという。そして旅費の百両が渡されたのだ。
突然の展開に驚く西郷であったが、つい先ほどまで一緒に死のうとしていた相手、お玉の顔色を伺う。
大望を成し遂げるという決意をした西郷は、百両のうち一両を抜き取り、残りの金を全てお玉に渡し江戸行きを決める。
お玉はいつまでも、旅立つ西郷の背中を見送るのだった。

西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)とは

池田大伍作。大正六(1917)年初演。豚姫という響きから、笑いを誘いそうな女性像かと思えばそうではなく、いつのまにか一途に恋をする一人の女性の物語に引き込まれる作品。『名月八幡祭』の作者・池田大伍によるもので、共に新歌舞伎の代表作といわれる。

2019年 『歌舞伎座七月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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