恋する歌舞伎

陰謀うずまく御殿で失われた幼い命。母の嘆きは誰にも伝わらない

第48回 恋する歌舞伎は、八月納涼歌舞伎で上演予定の「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2019/07/28

恋する歌舞伎 第48回
「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」

【1】御家のため空腹を我慢する幼子ふたり。見守る母はなお辛い

足利頼兼は、御家横領を企む悪人たちに騙された挙句に隠居の身となり、まだ幼い鶴千代(つるちよ)が家督を相続することになった。陰謀がうずまく中、命を狙われている若君を必死に守っているのは乳母の政岡(まさおか)だ。
鶴千代の毒殺を未然に防ぐため、食事は一日に一回とし、自らの手で作ったものしか口に運ばせないようにする徹底ぶり。育ち盛りの幼子には酷なことだが、我が子・千松(せんまつ)にも同様にしている。「お腹が空いてもひもじゅうない」という鶴千代の健気な言葉に政岡は心を痛めるのだった。そこへ、裏でお家乗っ取りを後押ししている管領(幕府の高い役職)の妻・栄御前(さかえごぜん)と、乗っ取りを企てる一味のトップである仁木弾正(にっきだんじょう)の妹・八汐(やしお)らが現れる。

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」

【2】毒入りお菓子を食べた制裁はあまりにもむごい。実の母はそのとき・・・

八汐は栄御前が見舞いの品として持参した菓子を勧めるが、鶴千代が手を伸ばすと政岡が咄嗟に制するので「止めるということは毒が入っていると疑っているのか」と詰問される。政岡が困惑していると、突然千松がやってきて、ためらいもなく菓子を食べてしまったのだ!
なぜこのような行動をとったかといえば、日頃から、母の教えである「命がけで若君を守りなさい」というしつけをされていたからであろう。大方の予想通り、菓子には毒が入っていた。たちまち苦しみだす千松を見てこのままでは事態が明るみになってしまうと動揺する八汐。なんと幼い子どもを引っ立て「無礼な働きをした制裁」だと、千松の喉元に懐剣をなんども突き立てたのだった・・・。実の母である政岡はその場に居合わせながら、止めもせず驚きもせず、鶴千代を安全な場所へ避難させ、顔色ひとつ変えずにじっと堪えるのだった。

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」

【3】現実のものとは受け入れ難い状況に、母は立ち尽くし泣き崩れる

我が子の信じられない光景を前に、動じない政岡の姿を見た栄御前は「自分の子供が殺されてこんなに気丈に振る舞えるわけがない。政岡も自分たちと同胞で思惑があり、千松と鶴千代を幼い頃に取り替えていたのだろう」と勘違いをする。そして人払いをした上で、政岡にお家横領一味の連判状(仲間という誓いを示す署名)を渡すのだった。これこそ御家横領を示す確かな証拠である。政岡は素知らぬふりをして、栄御前を見送る。
一人になった政岡は途端に母の顔に戻り、我が子の遺骸に駆け寄る。千松が命を賭けて鶴千代を守りあげたからこそ、悪事の証拠が手に入ったと褒め上げるが、もう息子はこの世にはいない。運命を呪い、慟哭する政岡なのであった。
そこへ現れたのは憎き八汐。政岡は斬りかかるこの女を逆に討ち果たし、恨みを晴らすのだった。

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」

【4】短くも意味のある尊い命に感謝をする一同。悪は滅び平和が訪れる。

このお家騒動も収束に向かうと思いきや、その後、あの大事な連判状を鼠がくわえて逃げていってしまう。
なんとか取り返したいと、御殿の床下で鶴千代をかくまっているのは荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ)という男。そこへ先ほど連判状をくわえた鼠が現れる。男之助が鉄扇で鼠を打ち据えるが、その場から逃げられてしまう。この怪しげな鼠だが、実は妖術を使って化けていた仁木弾正だったのだ!連判状を取り戻した弾正は不気味に去っていく。
しかしその後、裁判にかけられ悪は成敗されるのだった。

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」とは

伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)とは
天明五年(1785)年、人形浄瑠璃で江戸結城座初演。歌舞伎では安永六(1777)年、大阪中の芝居初演。奈河亀輔らの合作。江戸時代に起こった大名家の有名な御家騒動の一つ、仙台藩の伊達騒動を下敷きにしている。政岡の行動は現代では想像し難い哀切極まる場面であるが、我が子の死を悲しむクドキは作品中最大の見せ場である。

2019年 『八月納涼歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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