恋する歌舞伎

断ち切れない因縁にもがく若者たち。彼らに明日はあるのか

第50回 恋する歌舞伎は、歌舞伎座芸術祭十月大歌舞伎で上演予定の「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2019/09/05

恋する歌舞伎 第50回
「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」

「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」

【1】キレイなお嬢様の正体は泥棒!外見で人は判断できない!?

おとせは気立てのいい娘だが、家のために夜鷹(街娼)として働いている。彼女が夜道を歩いていると、か弱そうなお嬢様が道を聞いてくる。方向も一緒なので連れ立って歩くことにするが、途中で態度が豹変。懐の金は奪われ、川に突き落とされてしまう!この娘の正体はお嬢吉三(おじょうきちさ)という、女の姿で盗みを働くワル。おとせから奪った百両という金包みを手にし「こいつは春から縁起がいいわぇ」と、1人つぶやくのだった。
しかしこの現場をある男に見られていた。元は武士だが家の没落により、今は浪人としてその日暮らしをしているお坊吉三(おぼうきちさ)だ。大金と聞いては黙っていられず、金をかけて勝負だとお嬢吉三と一触即発に!

「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」

【2】同じ名前の3人の不良。この出会いは運命か?一方では信じられない偶然も

そこへ割って入ってきたのは和尚吉三(おしょうきちさ)。ひとまずこの喧嘩は俺に預けて引け、というのだ。冷静になった2人は、この百両は命がけの喧嘩を止めてくれた和尚が受け取ってほしい、そして義兄弟の契りを結んで欲しいと願い出る。同じ名前の3人がこうして出会ったのも何かの縁だと、和尚が中心となり血盃をかわすのだった。
一方おとせはというと、久兵衛という男に助けられ命は取り留めたが、あの金は命より重いものだった。なぜならあの日、おとせはある若者と運命の出会いをし、金はその男の忘れ物だったからだ。父の伝吉(でんきち)にそのことを話すと、その男なら奥にいるという。
若者は十三郎(じゅうざぶろう)という、刀剣商の従業員で、あの日はお屋敷で刀の代金を預かった帰りだった。その途中におとせと出会い、帰り際に金を無くしたことに気づいたという。百両という大金を失ったら店には帰れない、もう自殺するしかない!と身を投げようとしたところ、伝吉に助けられたのだ。しかも、おとせを助けた久兵衛は十三郎の父。出来すぎた縁と互いの子どもの無事を喜ぶが、結局のところ金は盗られたままだと嘆くのだった。

「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」

【3】出会いは悪夢の始まり。絶対に出会ってはいけない2人の運命は・・・

その夜、伝吉を訪ねてきたのは和尚吉三。実は和尚は伝吉の息子、つまりおとせの兄だ。今まで孝行をしてこなかったからと、先ほどお嬢とお坊から貰った百両をそのまま差し出す。しかし伝吉は、盗みでもして得た金だろうと突っぱねるので、和尚は腹を立て「二度とこんな家に来るものか」と出て行く。
伝吉が金を受け取らなかったのは、これ以上因果な罪を重ねられないという理由からだ。
実はおとせの運命の相手に見えた十三郎は、生まれて間もなく捨てた実の息子。つまりおとせの双子の兄で、愛し合った2人は近親相姦ということになる。
伝吉はその昔、自分が仕えていた主人の命令である刀を盗みに入ったが、その時に孕み犬を殺めてしまい、当時出産したばかりの妻は発狂して死んでしまった。そのとき生まれた子供がおとせと十三郎だったのだ。畜生道に落ちた2人のことを、これも犬の祟りだと、因果な運命を嘆く。この伝吉の述懐を、和尚吉三は陰で聞いていたのだった。
伝吉はどうにかして百両を手に入れたいと彷徨っていた。とそこへ、見知らぬ男が大金を手にしているところを目撃する。はじめは貸してくれないかと丁寧に交渉をするが、応じてもらえない。遂には掴み合いとなり、伝吉は斬られて命を落とす。なんとこの男はお坊吉三だったのだ。不運なことに、証拠の品も落としてしまう・・・。

「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」

【4】固い絆か運命のいたずらか。互いを想う若者たちの行き先は1つ

今や3人ともに追われる身。お嬢吉三とお坊吉三は、和尚吉三の住む巣鴨の吉祥院に身を隠している。お嬢とお坊は「元はといえば自分たちの悪行のせいでこんなことになってしまった。最後は和尚の手にかかって死にたい」というが和尚は「この偽首を使って生き延びろ」と包みを渡す。あけてみると、それはおとせと十三郎の首だった。「2人が忌まわしいこの世から解放され、あの世で結ばれてほしい」と、兄妹だということは告げず、2人を手にかけたのだ。この首を和尚の義兄弟であるお嬢とお坊に役立てることができれば、2人は犬死にならないと言うのだ。お嬢とお坊は感謝をし、逃げることを決意する。

しかしこの偽首計画は明らかになり、和尚は召し取られ、残りの2人も逃げられぬよう通行の木戸は閉ざされていた。お嬢吉三は櫓の触れ書きを読み、太鼓を打つと木戸が開くとわかり、櫓に登って太鼓をたたく。すると和尚が現れ3人は再会。それもつかの間、捕手に囲まれた3人は、もはやこれまでと悟り、互いに刺し違え壮絶な最期を遂げるのだった。

「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」とは

河竹黙阿弥作。安政7年正月市村座初演。三人の出会いとなる序幕「大川端庚申塚の場」が有名で上演頻度が高い。

2019年 『芸術祭十月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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