恋する歌舞伎

更新日:2016/07/29

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死んだ恋人の魂が胎内に宿る!別名「金太郎・誕生秘話」

恋する歌舞伎:第12回『嫗山姥(こもちやまんば)』

今回は『嫗山姥(こもちやまんば)』をピックアップ! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

【1】お屋敷から聞こえてきたのは失踪中のダーリンが歌うあの歌

八月納涼歌舞伎

ここは大納言岩倉兼冬の館。兼冬の息女・沢瀉姫(おもだかひめ)は、許嫁である源頼光が敵討ちの騒動に巻き込まれ、その後連絡が途絶えており沈んでいる。そんな姫の元気を少しでも取り戻そうと、姫の世話をする局は煙草屋源七(げんしち)を呼び、三味線と歌を歌わせ気晴らしをさせようとしている。そこを通りかかったのが本作の主人公・八重桐(やえぎり)。八重桐は元々人気の遊女だったが、失踪した恋人を探しているうち、気づけば路上で芸をしてお金をもらうという生活に。そんな八重桐が偶然塀の外を通りかかったとき、聞こえてきた曲が行方不明になっている夫と自分しか知らないものだと気づく! こんな状態の自分を置いて夫はのん気に立派な館で歌を歌っているのか!? 本当なら乗り込んで文句の一つでも言いたいことだが、こんな高貴な場所にはそうそう足を踏み入れることはできない。そこである方法を思いつく。

【2】人の気も知らないで・・・恨みつらみは喋りだしたら止まらない

八月納涼歌舞伎

八重桐は「傾城のラブレターを代筆しますよ~」とわざとお屋敷の周りで売り声をあげる。つまり自分は職業柄、普段知ることのできない、廓世界の表裏を知っているのでそれを面白おかしく話して聞かせますよというアピールになるのだ。作戦は大成功で、興味津々の腰元の手引きで屋敷に招き入れられる。中に入ると、やはり煙草屋というのは、夫で武士の坂田蔵人時行(さかたくらんどときゆき)だった。そこからは八重桐の徹底攻撃開始。「自分はかつて遊女だったが、ある男を巡って他の遊女と大バトルをした。私が勝利し廓を抜け出て結婚したが、その男は敵討ちを口実に逃げてしまった。今頃どこで何をしているのかしら!」と得意のしゃべり芸を披露する。もちろん男とは時行のことで、目の前で当てこすりをしたのだった。

【3】面目なさに夫がとったオドロキの行動!これで二人は永遠に一緒・・・

八月納涼歌舞伎

時行はそんな八重桐に対し、父親の敵討ちのために家を出たことは本当だが、いろいろとうまくいかないことばかりで、頑張ってはいるんだと説明する。しかしその肝心の敵討ちについて、八重桐からびっくり発言。実は夫の仇である物部平太を、時行の妹が既に討ったというのだ。またこの敵討ちで時行の主人で沢瀉姫の許嫁でもある頼光がピンチであることも訴える。すると我が身の不甲斐無さを恥じた時行は、なんとその場で切腹してしまう! そして死に際に「俺の魂は君の胎内に入って、人間離れしたパワーを与える。そしていずれ宿る子どもを強くたくましく育ててほしい」と、不思議な言葉を残して息絶える。予言の通り、時行の魂は八重桐の体に宿る。これこそ、愛する人と一心同体になったとでもいうのだろうか。八重桐は、男性と女性の両方の人格と力、それに不思議な神通力が備わるのだった。

【4】大力無双となった八重桐はやがて山姥となり使命を果たす

八月納涼歌舞伎

この予期せぬ騒動の最中、虎視眈々と姫を狙っていた敵が大勢の手下をつれてやってくる。しかし時行の力を得た八重桐にかかればなんてことはない。軍勢をあっという間に追い散らしてしまう。そして八重桐はどこかへ消えてしまうのだった。彼女は人里離れた山奥でまもなく懐妊し、出産する。その男児は夫の予言通り、人間離れしたパワーを持っており、その力はまさかりを担いで、クマをも投げ飛ばすほど。そう、この子どもこそのちの坂田金時、つまり日本の昔話で知られる金太郎である。日本人なら誰でも知っているヒーロー・金太郎は、一人の恋人に身を捧げた女性の、波乱万丈すぎる人生の結晶なのだ。

『嫗山姥(こもちやまんば)』とは

近松門左衛門作。正徳2年(1712)人形浄瑠璃で初演され、寛政7年(1795)歌舞伎に移入された。今回歌舞伎座で上演されるのは武智鉄二補綴版。通称「しゃべり」といわれる、八重桐の物語は見せ場とされる。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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