恋する歌舞伎

許嫁のため、振袖姿で大奮闘。恋に一途なお姫様の物語

今回は『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』をピックアップ! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2016/05/24

恋する歌舞伎:第10回『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

【1】未だ二次元でしか見たことのない許嫁。いずれ会えると信じていたのに・・・

時は戦国時代。将軍・足利義晴は、対立関係にある武田家と長尾(上杉)家の子ども同士を許嫁に定め、仲直りをさせようとしていた。お話のメインとなるのはその許嫁同士である長尾謙信の娘・八重垣(やえがき)姫と、武田信玄の息子・武田勝頼(かつより)の物語。

八重垣姫は、政略結婚ではあるものの、勝頼の肖像画を見て一目で恋に落ち、嫁入りする日を心待ちにしていた。ところがある日、将軍・義晴が何者かによって殺されるという事件が勃発。疑いのかかった武田・長尾両家はその真犯人を捜すという任務を命じられるが、結局約束の期日までに見つけることが出来ず、勝頼は責任をとり切腹する。想い焦がれた許嫁がこの世からいなくなったと聞かされた八重垣姫は、絶望のあまり引きこもりになり、勝頼の肖像画を見ながらお香を焚いて回向をする日々を送っている。

『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

【2】愛しいあの人の“そっくりさん”が自分のすぐそばに!?

しかし切腹したのは顔が瓜二つのニセモノで、ホンモノの勝頼は生きていたのだった! しかもホンモノ勝頼は、ニセ勝頼の妻・濡衣(ぬれぎぬ)という女性と共に、この邸へスパイとして送りこまれている。そうとは知らず、今日も夫になるはずだった勝頼の絵姿を見ながら香を手向ける八重垣姫。するとなぜか隣の部屋に、死んだはずの許嫁がいるではないか! 駆け寄ってくる姫に勝頼は「人違いです。僕は箕作(みのさく)という花作り師です」といってごまかす。しかし姫は、許嫁とそっくりな彼に恋をしたといい、濡衣にこの男性との間を取り持ってほしいとお願いする。やがて姫は、このそっくりさんがホンモノの勝頼ではないかという疑念が芽生え、濡衣とのやりとりから次第に確信に変わり、真実を明かして欲しいと必死に頼む。

『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

【3】所詮は敵同士、再び引きはがされる2人。そのとき姫のとった行動は?

観念した勝頼は事の顛末を明かし、遂には心を許し合う2人。このまま幸せな展開へ進むと思いきや、突然、八重垣の父である長尾謙信が現れ、箕作には塩尻へ向えという命令がくだり、再び離ればなれになる。実はこれも計略であり、謙信はすでに箕作を勝頼と見破っていたため、その命を奪うために使いに出したのだった。父の真意を知った八重垣姫は、涙ながらに夫・勝頼の命を助けて欲しいと懇願するが、謙信は娘の言葉に一切耳を貸さない。

こうしているうちにも危険が刻一刻と迫っていると、自らの足で夫を救いに行くことを決意する八重垣姫。追っ手から逃れさせるためには、先回りをして勝頼に危機であることを伝えなければならないが、一番の近道は邸と塩尻の間に位置する諏訪湖を直進することだ。しかし今は冬なので、湖面が凍結し船が出せないという絶体絶命の大ピンチ状態!

『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

【4】あの人を助けたい!そう願えばなんだってできる。たとえ湖面を渡ることだって!

「翼が欲しい。飛んで行きたい」と嘆く姫の前に現れたのは一匹の狐。狐いわく今の姫なら、凍った湖面の上を渡っていけるというのだ。それにしても、なぜ狐が力を貸してくれるのか。そもそも両家の不和の原因は、武田家の大事なお宝である兜(かぶと)を、長尾が武田から借りたまま返さないことだった。その兜には、諏訪明神の使いである“狐”の霊が宿っており、戦場でものすごい力を発揮したのだ。

勝頼に届けようと携えていた兜によって、狐の通力を得た八重垣姫。愛する夫を助けるためと、先を急ぐのだった。愛の力は時に人間の常識を超え、想像し得ないような底力を発揮させるのだろうか。おっとりとして世間知らず、なのに恋愛のことになると超積極的でとんでもない行動力を発揮するというギャップが、歌舞伎に登場する代表的なお姫様の特徴であり、魅力なのかもしれない。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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