
400年以上の歴史があり、日本が世界に誇る伝統芸能のひとつ「歌舞伎」は、能・狂言や舞楽、文楽と並ぶ日本の舞台芸術。今や国内だけでなく世界中で親しまれる古典演劇だが、私たちはその歴史も含めて知らないことばかりなのでは? そもそも歌舞伎ってなに? どこでどう始まったの? そこでここでは、日本人だからこそ、最低限知っておきたい歌舞伎の歴史をご紹介!
国立劇場
400年以上前に京都で誕生。男装した女芸人による「かぶき踊り」が始まりだった
歌舞伎の始まりは、慶長8(1603)年に出雲の阿国という女性によって京都で始められた「かぶき踊り」と言われている。出雲の阿国は、北野神社の境内や四条河原町に能舞台をまねた仮舞台を造り、念仏踊りという歌舞や寸劇を披露していた。ちなみに歌舞伎の語源は「傾(かぶ)く」。「かぶく」とは世の中の“常識”に反して勝手な振る舞いや奇抜な行動をするという意味があり、「かぶいた人」たちは「傾奇者(かぶきもの)」と呼ばれていた。傾奇者は人目につく華やかな衣装を着飾って街中を歩いていたため、そのスタイルは当時の人々の憧れだったそう。
しかし、出雲の阿国がかぶき踊りを披露するまでは、仏教の禁制のために女芸人が公衆の面前で舞台に立つことが許されていなかった。そんな状況の中、彼女が男装して傾奇者のスタイルをまねた派手な衣装で登場したため、たちまち都の人々は阿国の踊りに熱中し人気の的になった。
歌舞伎はこのようにして誕生し、その後も時代に合わせて発展しながら現代まで400年以上続いている。
1652年頃から男性役者による「野郎歌舞伎」が成立し、歌舞伎の基本的な演技が完成
京都で誕生した「かぶき踊り」は、江戸でも人気を集めるようになり、遊女を含めた女性たちによる歌舞伎「女歌舞伎」や少年たちの「若衆歌舞伎(わかしゅかぶき)」が始まる。しかし、1652年ごろから、幕府から風紀を乱すという理由で女性や少年の役者による歌舞伎が禁止され「野郎歌舞伎(やろうかぶき)」と呼ばれる、成人男性役者による形式が確立。その過程で「女方(おんながた)」も生まれ、今日の歌舞伎の基礎ができ上がった。
この時代になると歌舞伎は大きく変わり、役者の外見だけではなく演技のうまさや演出で客を惹きつける傾向に。歌舞伎を成り立たせているのは芝居、踊り、音楽。この3要素で楽しませることを追求し、ひとつの総合芸術にまで磨き上げていった。例えば、当時、江戸の歌舞伎では、初代市川團十郎によって創始された「荒事(あらごと)」と呼ばれる、荒々しく豪快な演技・演出を得意とする役者が人気を集めた。こうして、江戸時代前半に歌舞伎は徐々に盛り上がりを見せる。
1716年~1736年、屋外から屋根付きの芝居小屋へ。演出も多用し花道も登場
享保年間(1716~1736年)、八代将軍・吉宗の時代になると歌舞伎の劇場も大きく変化。芝居小屋はそれまで屋根がなかったのだが、この頃は屋根付きになり、現代でも見せ場となっている「宙乗り」や、夜の演出がしやすくなってストーリーにも幅が生まれた。また、歌舞伎の舞台独特の花道やせり上げなどもこの時代から登場する。質素倹約のイメージが強い吉宗だけど、歌舞伎に限らず「芸術の類は人間によい影響がある」と考えていたらしい。近松門左衛門の作品である、「平家女護島 俊寛」や「曽根崎心中」などがこの時代の代表作である。
花道(はなみち)
舞台に向かって左側にある客席を貫き舞台に続く通路。人物の登退場や、人物が立ち止まって演技する舞台の一部でもある。
せり上げ
俳優や大道具を奈落(ならく)から舞台または花道へ押し上げること。
宙乗り(ちゅうのり)
俳優の身体を宙に吊って舞台や観客席の上を移動させる演出。
明治22年、銀座「歌舞伎座」が設立。昭和には「スーパー歌舞伎」が登場
様々な危機を乗り越え、幕末をひっそり生き抜いた歌舞伎。明治時代になると、天皇など身分の高い人や、外国人に向けた芸能として求められるようになった。また、外国に文明国・日本をアピールするために、歌舞伎を近代社会にふさわしい内容に改めようと“演劇改良会”が結成された。そして、明治22(1889)年に“演劇改良会”の会員と金融業者の共同で銀座「歌舞伎座」が設立。この頃に歌舞伎とは関係のない作者によって書かれた「新歌舞伎」という新しいジャンルも生まれた。坪内逍遥の「桐一葉(きりひとは)」や山本有三の「坂崎出羽守(さかざき でわのかみ)」などがある。
戦後しばらくは、GHQによって仇討ちや身分社会などが含まれた演目は禁じられていた歌舞伎だが、昭和22(1947)年に仇討ちを題材にした最高傑作「仮名手本忠臣蔵」が興行。昭和35(1960)年代以降になると、古くからの演目や様式が復興され、「国立劇場」、大阪「松竹座」と「博多座」も開場。さらに大胆な演出を用いた「スーパー歌舞伎」を生み出したことにより、歌舞伎は再び世間の注目を集めるようになる。このように、約400年余りにわたる紆余曲折の歴史を経た今日、歌舞伎は日本の誇るべき伝統文化として、また世界の古典演劇として大変高く評価されている。
歌舞伎に関する気になる疑問を解決!
東京ではどこで歌舞伎鑑賞が楽しめるの?
東京では歌舞伎座(東銀座)や国立劇場(半蔵門)ではほぼ定期的に公演があります。ほかにも新橋演舞場(東銀座)や、さまざまな劇場で歌舞伎公演が行われています。オズモールでは、東京や神奈川などで開催されている歌舞伎公演をお得に予約ができます。詳細はこちらをチェック。
歌舞伎役者にはどういう人がなっているの?
歌舞伎俳優になるには、歌舞伎の家に生まれ芸を磨く、もしくは国立劇場に付属する養成所で基礎教育を受け、幹部俳優に入門するという方法があります。中村獅童さんや尾上右近さん、ほか養成所から歌舞伎俳優になった中村橋吾さんなど、歌舞伎俳優のインタビュー記事も同時にチェックしてみて。
中村獅童さん
尾上右近さんさん
尾上松也さん、中村歌昇さん、坂東巳之助さん
養成所から歌舞伎俳優になった中村橋吾さん
【特集】初心者でも、ツウでも!たのしい歌舞伎案内

“歌舞伎=難しそう”って思っていない? 義理人情、恋愛模様に笑いと涙が詰まったドラマチックな物語や、華やかで大胆な衣装や舞台、演出、そしてなんといっても、伝統芸能を受け継ぐ役者たちの圧巻の演技! 一度観たらハマること間違いなし。そんな歌舞伎の演目や、公演情報、劇場についてご紹介します。
※参考文献:「歌舞伎-その美と歴史-」、歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人 ほか
WRITING/MACHIKO MIYATA