恋する歌舞伎

せつない理由で化け続けた狐。鼓(つづみ)にこめられた物語とは?

第57回恋する歌舞伎は、「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

更新日:2020/04/28

恋する歌舞伎 第57回
「義経千本桜 川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」

「義経千本桜 川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」

【1】隠れ家に話の噛み合わない家来がやってきた。託した恋人は一体どこへ!?

源義経は、兄・頼朝と対立し都を追われたため、九州へ向かっていた。旅の途中である今日、義経は吉野の山奥にある川連法眼(かわつらほうげん)の館で匿われている。そこへ「佐藤忠信(ただのぶ)が義経を訪ねてやってきた」と伝達がある。忠信とは義経の家来で、留守中に恋人である静御前(しずかごぜん)を託していた人物である。早速、やってきた忠信に静のことを尋ねるが「母が急逝し、帰省のため休暇をもらっていた。その後は自分も破傷風にかかり今まで養生していたので、静様のお供をした覚えはない」と言うではないか。裏切りともとれる返答に怒りを抑えきれない義経だが、そこへ静御前のお供として忠信が到着したという連絡が。ここに忠信はいるのに、またもや忠信がくるのはおかしい。何か仔細があるのだろうと、義経は家来に様子をみるよう命じる。

「義経千本桜 川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」

【2】お供の家来は一体何者?感動の再会の場面に動揺が走る

しばらくすると静御前がやってきて、義経との久々の再会を喜ぶ。そして忠信が既にいることに気がつき「一緒に義経様に会おうと思っていたのに、先に到着しているなんて」と不満を漏らす。しかし忠信はやはり、静のお供などしてはいないと言う。義経は不審に思い、ここにいる忠信に何か変わったことはないかと静に尋ねる。すると「同道していた忠信と着物の模様が違う」というのだ。さらに思い当たることとして、はぐれたときに(義経の形見として持ち歩いていた)初音の鼓を打つと必ず戻ってくること、その音への心酔の仕方が異常なほどだったことを明かす。義経は静に忠信の詮議を任せ、もし不審なことがあったら刺し殺すことも辞さないと伝え、奥へ入っていく。

「義経千本桜 川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」

【3】まさか人間でないなんて・・・遂に暴かれる、ニセモノお供の秘密

早速、忠信を呼び出すために静が鼓を打つと、その音に誘われ忠信がどこからともなく現れる。しばらく鼓を打ち続けると、やはりその音に聴き入り油断している様子。その隙をみて静は義経の言いつけ通り、刀を振り上げる! 強く詰め寄られた忠信は、とうとう自分の素性を語り出すのだった。実は静御前と一緒に旅をしていた人物の正体は“狐”だったのだ! 桓武天皇(かんむてんのう)の御代の時代、この国は干ばつに見舞われ人々は困り果てていた。そこで雨乞いの儀式を執り行うため、鼓を作ることになった。鼓の皮を作るために夫婦の狐が犠牲になり、残された子狐こそが、ここにいる忠信に化けた狐だったのだ。子狐は周囲から「親孝行もできない野良ぎつねめ」と蔑まれていたという過去を涙ながらに話す。そして、初音の鼓が朝廷から義経の手に渡ることになると知り、家来の姿に化ければ鼓となった両親と一緒にいられると思ったと明かす。しかし本物の忠信と鉢合わせになっては、迷惑をかけてしまうと言い、狐忠信は名残惜しそうに姿を消すのだった。

「身替座禅(みがわりざぜん)」

【4】人間・狐の心が通い合った瞬間、起こった奇跡とは?

一連の様子を見ていた義経は狐に同情し、もう一度呼び寄せるようにと静に鼓を打たせるが、何度打っても鼓から音は出ない。なぜなら親狐は、子狐との別れを悲しむあまり今までのように軽快な音を出せなくなってしまったからだ。義経は、幼い頃に父・義朝を亡くし、母・常盤御前とも別れ、頼みの綱の兄にも疎まれる自身の身の上と、狐忠信の境遇を重ね、静と共に涙する。
すると、もう一度会いたいと願う2人の思いが届いたのか、狐忠信が再び姿を現す! そこで義経は、静を守ってくれた御礼にと、初音の鼓を与えるのだった。狐忠信は大喜びし、鼓と戯れその感情を表現する。そして鼓に耳を傾けた狐忠信は「これから義経を追っている敵が来る」という親狐からの忠告を受け、妖術を使って悪者たちを退散させるという働きもみせる。そして、義経と静御前に感謝をし、古巣へと帰っていくのだった。

「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)とは

二世竹田出雲、並木千柳、三好松洛の合作。延享四(1747)十一月大阪竹本座初演。翌年寛延元年(1748)年歌舞伎初演。『義経千本桜』は、『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』とともに三代名作の一つに数えられる。全五段の内、四段目の切の場であることから、通称「四の切(しのきり)」と呼ばれる。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

【おうちで歌舞伎を鑑賞】『通し狂言 義経千本桜』

「義経千本桜 川連法眼館の場(かわつらほうげんやかたのば)」をおうちで鑑賞!

2020年3月に国立劇場で開催予定だった、通し狂言「義経千本桜」(よしつねせんぼんざくら)の二段目、三段目、四段目全編をYouTubeで特別に公開! 都落ちする悲劇の貴公子・源義経と、平家の武将、知盛・維盛・教経、そして鼓(つづみ)を自分の親と慕う“狐”の情が巧みに絡まった、親しみやすく分かりやすい超傑作なので、おうち時間にじっくり鑑賞してみて。尾上菊之助と尾上丑之助の親子共演もお見逃しなく。

【特集】初心者でも、ツウでも!たのしい歌舞伎案内

“歌舞伎=難しそう”って思っていない? 義理人情、恋愛模様に笑いと涙が詰まったドラマチックな物語や、華やかで大胆な衣装や舞台、演出、そしてなんといっても、伝統芸能を受け継ぐ役者たちの圧巻の演技! 一度観たらハマること間違いなし。そんな歌舞伎の演目や、公演情報、劇場についてご紹介します。

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