プロジェクトの原点 キリン「メッツ コーラ」

はじめての方へ



オズモールTOP > オズモール for MEN TOP > プロジェクトの原点 キリン「メッツ コーラ」

炭酸飲料の代名詞であるコーラ。世界的な2大ブランドがシェアを握るそのシビアな市場に敢えて打って出たのがキリンだった。「無駄打ちだ」とも言われた挑戦だったが、キリンの「メッツ コーラ」は見事に成功を収めた。その裏側を若き開発担当者が語ってくれた。

【困難なジャンルへのチャレンジ】

光星晴信(キリンビバレッジ株式会社)
大学時代からテニスを続けているという光星。「健康コンシャスな私自身が求めていた飲み物を開発できて、とても嬉しいです」
「この商品をひと言で表すとするなら、『史上初の特保のコーラ』ですね」

 キリンビバレッジの若き開発者、光星晴信はそう切り出した。 「特保」とは、特定保健用食品のこと。体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含んだ食品で、国(消費者庁)の許可を得て特保マークを表示している。CMなどでその名前を耳にしたり、実際に特保の食品を口にしたりしたことがある人も多いだろう。
 光星は「メッツ コーラ」がどのように企画され、商品化されたのかを語ってくれた。

「企画として持ち上がってきたのは、私が入社する前年の2007年でした。当初は、とにかく何か特保の飲料を出そうという話だったそうですが、私が入社してマーケティング部に配属された後、『コーラでいこう』と決定されました。健康とは大きく距離感のあるコーラという液種を選択することで、お客様に提案性や驚きを与えることができるのではないか、というのが決定の理由でした」

 とはいえ、コーラというジャンルにはコカ・コーラ、ペプシ・コーラという強力すぎるライバルが存在する。

「社内でも『コーラに挑戦するのは無駄打ちになるのではないか』という反対論はありました。私自身、手を出すべきではないんじゃないかという気持ちがあったのも事実です。しかし、コーラは市場のボリュームが大きいですし、社内にはコーラに対する憧れもありました。また、キリンはチャレンジ精神を大切にする会社でもありますので、最終的には『コーラで勝負しよう』という結論に至りました。その決断の場面に立ち合えたことは、私にとって非常に得難い経験になりました」

【5年を費やして求めた特保と味】

メッツ コーラ
特保、糖類ゼロだけでなく、カロリーもほぼゼロに近い「メッツ コーラ」。王道のテイストに加え、すっきりした後味の良さも特徴。
 もちろん、キリンは勝算なくしてコーラという戦場に打って出ようと決めたわけではなかった。
 光星は言う。

「ただのコーラを作っても勝ち目はありません。強力なライバルがいる市場で勝負するには、何かしらの武器が必要です。私たちにとって、それこそが“特保”でした」

 しかし、特保の認可を得るのはそう簡単なことではない。「メッツ コーラ」には、トウモロコシ由来の有効成分「難消化性デキストリン」によって、食事の際に脂肪の吸収を抑える効果が盛り込まれることになった。そのためには試験で効果を科学的に証明し、消費者庁に認めてもらわなければならない。この過程に1年半ほどかかった。通常の清涼飲料の開発は1年程度だというから、特保だけでその期間を超えてしまったのだ。

「特保以外にも、味覚設計には非常に時間がかかりました。コーラというと誰もが共通して持っている、『これがコーラだ』という味のイメージがあると思うんです。しかし、厳密な味の定義はありませんし、どうやったらコーラの味が作れるのかという知見もレシピも私たちは持っていませんでした」

 光星らキリンの開発陣は、まったくゼロの状態から手探りでコーラの味を求めていった。とても身近だったはずのコーラは、いざ作ろうとすると謎だらけ。試作品ができても、色が黒っぽくて炭酸が入っているだけの、コーラとは似て非なるものにしかならなかった。

「結局、100回以上試作することになりました。1回につき10種類以上も出てくることもあるので、合計すると千種類を越えるサンプルを試したことになります」

 さらにもうひとつの問題が、「糖類ゼロ」だ。食事の際に脂肪の吸収を抑える特保のコーラであるなら、それと共に糖類もゼロ(いわゆるゼロ系)にするのは必然。光星らは砂糖を使わず、3種類の甘味料を組み合わせて甘さを表現しようと試みた。

「口に含んだ瞬間の甘さ、私たちが“ボディ感”と呼ぶ飲んでいる最中の甘さ、そして後味として残る甘さ――この3つのバランスが非常に難しいんです。しかも、フレーバーが少しでも変更になると、甘さのバランスもそれに合わせて変えなければなりませんでした」

 特保、フレーバー、糖類ゼロ…ようやくすべての条件を満たしたコーラができ上がったときには、実に5年の歳月が経過していた。

「正直言えば、途中で心が折れそうになったこともありました(笑)。5年経てば、市場や経済、社会の状況も変わります。『今さら出しても、世の中に受け入れられないのではないか?』という不安はありましたね」

 ともかくも、光星ら開発陣はやり抜いた。
 メインターゲットは、健康に気を使う30代40代の男性。商品名には、炭酸飲料としてその年代に馴染みがある「メッツ」のブランド名を冠した。
 そして今年4月24日、満を持してキリンの「メッツ コーラ」が発売された。当初の販売目標は、年間100万ケース。ところがなんと、わずか2週間でその年間目標をクリアしてしまったのだ。文句なしの大ヒットだった。
 その後も「メッツコーラ」の快進撃は続き、年間販売目標は6倍の600万ケースに上方修正された。

【重要なのはコンセプトという“種”】

光星晴信(キリンビバレッジ株式会社)
「飽和した市場の中では、商品に提案性と驚きがないと残っていけない。これは飲料業界だけに限ったことではないと思います」
 光星自身は、「メッツ コーラ」の成功の理由を次のように分析している。

「大きく言うと、3つあると思います。1つめは、コンセプトがわかりやすかったこと。ハンバーガーやピザなど脂分の多い食べ物と相性のいいコーラに脂肪分の吸収を抑える特保の効果・効能を持たせたことで、メインターゲットである30代40代の男性に支持していただけました。これは狙いどおりでした。2つめは味。『普通のコーラだね』というのが私たちにとって最大の褒め言葉だと考えていたんですが、苦労してフレーバーを開発した甲斐もあり、お客様の口からその言葉をお聞きすることができました。3つめは女性。30代以上の女性が特保ということにビビッドに反応し、買ってくださったんです。これはいい意味で想定外でした」

 実は、「メッツ コーラ」には特保や味以外にも重要な工夫がある。
 たとえば、パッケージ。コーラらしい赤・白・黒に、特保のプレミア感をイメージさせる金というカラーリング。下3分の1が透明になっているのは、内部の液色を見せながら、結露が生み出す冷たそうなシズル感を表現するためだ。
 また、特保ではない商品との価格差もたった10円に抑えた。容量が480mlなのは、コストを削減したわけではなく、炭酸で中身が吹きこぼれて特保の要件を満たさなくなってしまうのを防ぐため、わざと余裕を持たせているのだ。広告は、メインターゲットである30代40代の男性の心にピンポイントで刺さるよう、『あしたのジョー』を使用した。
 光星ら開発陣のこういった苦労と工夫の集積が、予想を上回る売上につながったのだ。

「コンセプトは商品の“種”だと私は考えます。商品開発のスケジュールは非常にタイトですし、競合他社も新製品をどんどん出してくる状況ではありますが、大切なのは開発者がいかに時間をかけていい種を見つけることができるか。いい種からはいい芽が出ますし、立派な幹が育ち、枝葉が大きく広がっていきます。『メッツ コーラ』は木に育つまでに5年もかかってしまいましたが、つくづくコンセプト=種が良かったと思います」

 まるで5年の歳月を取り返すかのように、爆発的なスピードで売れている「メッツ コーラ」。若木から大木へ、そしてライバルにも匹敵する巨木へ――大いなる挑戦はまだ始まったばかりだ。
※敬称略
  • 光星晴信
  • プロフィール
    光星晴信
    キリンビバレッジ株式会社 マーケティング本部マーケティング部商品担当 主任。27歳。2008年新卒で入社し、現部署に配属される。主な担当は炭酸飲料とスポーツドリンク。手がけた商品は「大人のキリンレモン」「キリンの泡」「キリンラブズスポーツ」など。


©1996-2013 Starts Publishing Corporation. ALL Rights Reserved.