プロジェクトの原点 カロッツェリア「サイバーナビ AVIC-VH99HUD」

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「車のフロントガラスの向こうに見える風景の中に、ルートや交差点の名称、ランドマークなどのナビゲーション情報が重なる――今まではアニメやSF映画の世界のものでしかなかった技術がついに実現。世界初のカーナビが完成するまでのエピソードを聞いた。

革命的なカーナビを目指して

橋田雅也(パイオニア株式会社)
HUDを用いたARの表示を考えたとき、ウィル・スミス主演の『アイ、ロボット』など様々なSF作品が頭に浮かんだという橋田。
 AR(Augmented Reality/拡張現実)とは、現実そのものにデジタル的な情報を付加することで、より幅広い現実感を与えるための技術だ。そんな近未来的な技術がカーナビゲーションシステムに搭載され、7月下旬に発売された。カロッツェリア「サイバーナビ AVIC-VH99HUD」(以下、AR HUDナビ)である。

 車のサンバイザーの位置に「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」と呼ばれる機器を設置し、ゴーグル状のディスプレイにレーザーで情報を照射する。ドライバーはディスプレイ越しにフロントガラスを見ることにより、前方の景色の中にルートなど様々な情報が重なって見えるのだ(ディスプレイがフロントガラス全体を覆うわけではない)。

 今までのカーナビのイメージを一新する「AR HUDナビ」がいかに生み出されてきたのか、企画・開発を担当したパイオニアの橋田雅也に話を聞いた。

「私は現在、カー事業戦略部に所属しているのですが、この部署は3年前にプロジェクトとして私と上司の2人だけでスタートしました。当時は今ほど普及していなかったスマートフォンを使って、カーナビを初めとする表示ツールに革命を起こしたい、という思いで立ち上がりました」

 入社以来、ずっとカーナビの開発に携わってきた橋田だが、カーナビの表示は本体上の小さなディスプレイで行うという方式はずっと変わっていなかった。だが、それだとどうしても情報は細かくなり、ドライバーの視点の移動も大きい。今までにない新しい発想が必要だった。

「どうしようかと考えて思い浮かんだのは、SF映画に出てくるような、フロントガラスに情報が浮かび上がるイメージでした。もしこれが実現できたら、実用性も非常に高くなるだろうと確信しました」

 こうして「サイバーナビ」の企画はスタートした。

零戦にも搭載されていたHUD

サイバーナビ(ショールーム「パイオニア プラザ銀座」)
ショールーム「パイオニア プラザ銀座」では、実際に「サイバーナビ」を体感できる。ゲームのような本体側の表示も楽しい。
 当初、パイオニアの社内では斬新な企画に対して否定的な意見もあった。橋田がプレゼンをすると、『ありえない』『製品にできるわけがない』といった声が上がったのだ。しかし、この最初の壁を橋田はパイオニアだからこその手法で乗り越える。

「うちの社名は『パイオニア(開拓者、先駆者)』ですので、社員はその意味を理解して入ってきた人ばかりなんです。しかし、長い間なかなか先進的な製品は出せていなかった。きっと誰もが新しいことをやりたくてうずうずしていたと思います。そこで、『パイオニアとして世界初の製品を作りたい』ということを全面に押し出したところ、社内全体から賛同を得ることができたんです」

 実はHUDの歴史は古く、航空機への搭載が最初で、旧日本軍の零戦にも搭載されていたという。自動車でも、これまで一部の高級車でフロントガラスに速度計などを表示するものはあった。

 橋田が挑もうとしたのは、大型のディスプレイにレーザーで情報を照射し、現実世界と重ねるという、今までとは違う方法だった。

「レーザーに関しては、パイオニアはレーザーディスクなどで培ってきた技術がありました。また、ARで非常に大事になるのが位置精度で、これが少しずれるだけでも風景と表示が合わなくなってしまうんですが、パイオニアには業界トップクラスの位置精度がありました。これは私自身が取り組んできた技術ですので、自信がありました」

 しかし、実際に開発を始めた橋田たちの前に様々な課題が立ちはだかる。

「世界初ということは、前例がないということなんです。たとえるなら、荒野に道を敷くような作業ですね(笑)。まず、製品を作る上での基準がありません。普通は設計基準・評価基準・品質基準といった基準があり、それを満たしていくんですが、基準そのものがないんです。これは自分たちで一つ一つチェックし、判断しなければなりませんでした。また、法律的な問題もありました。前例がないので、直接規制する法律が存在しないんです。ただし、関連する規制はありますので、官庁に確認を取りながら進めていきました。さらには、HUDの有効性を医学的見地からも検証し、HUDによるARの表示は視線移動が少なくて済むことが医学的に有効である、ということも確認しました」

 橋田たち開発チームは一つ、また一つと目の前に現れてくる壁を地道に乗り越えていった。

女性や年配層が実用性に注目

橋田雅也(パイオニア株式会社)
「企画・開発で大切なのは、まったく新しいものを作り出すこと。そして、それがお客様の新しい価値に結びつくことですね」
 ようやく「AR HUDナビ」の製品化が見えてきたとき、橋田は意外な壁に直面した。HUDユニットは車のサンバイザーを取り外して設置することになっていた。ところが、そこに問題があった。

「取り外した後のくぼみの形や取り付け穴の形状などが車によってバラバラだということがわかったんです。最初は、業者に委託して現行の新車がどうなっているのか調べてもらったんですが、それではとても足りません。そこで、パイオニア川越工場の全社員にメールを出したんです。『画期的なカーナビの開発のために自家用車を提供してもらいたい。ただし、場合によってはサンバイザーを壊してしまうかもしれない』と(笑)。それでも80車種くらいは集まりました」

 たとえ同じ車種でも、年式などによっても違いがある。いざ橋田が調べてみると、同じ年式でも途中からサンバイザーの部品などが変更になっているケースもあった。「AR HUDナビ」が適合するのか一つ一つ確認するという、またしても地道な作業が続いた。

「今でも調査は継続中なんですが、現時点で約150車種を調べました。そのうちの約7割に設置可能だということが判明しています」

 こうして橋田たち開発チームは、手探りで「世界初」を形作っていった。

 ついに製品版に近いものが完成し、披露されたのは2011年10月のCEATEC(アジア最大級の映像・情報・通信の国際展示会)。「AR HUDナビ」は多くの来場者の注目を集めた。

「製品の性質上、新しもの好きの男性がメインターゲットになります。しかし、CEATECでは女性や年配の方からも『見やすい』『実用的』といった評価をいただけました。本当に嬉しかったですね」

 ARやHUDという技術は、確かにアニメやSFを好む男性の心を刺激するものだ。しかし、従来のナビの画面を苦手としていた女性、小さくて見づらいと感じていた年配層にとっては、「実用性」のインパクトが大きかったのだろう。

 橋田の手がけた「AR HUDナビ」は今年5月に正式発表、7月に発売が開始された。

「調査によると、ソーシャルメディアでの反応は約8割がポジティブ、ショールームでも6割以上がポジティブでした。これから『AR HUDナビ』がドライバーの皆さんに受け入れられていき、より多くの方に使っていただけるようになると嬉しいですね」

 新たな道を切り開いた「AR HUDナビ」。見慣れた景色の中に浮かび上がるARのルート表示は、「近未来」へとつながっている。
  • 橋田雅也(パイオニア株式会社)
  • 橋田雅也
    パイオニア株式会社 カーエレクトロニクス事業統括部 カー事業戦略部 副参事。42歳。1993年に新卒で入社。以来、GPSプログラムの研究やカーナビソフトの開発など、一貫してカーナビ「カロッツェリア」に携わり続けている。


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