プロジェクトの原点 アンテナショップ「カルビープラス」

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東京駅の八重洲地下中央改札付近には香ばしさと甘さが入り混じったいい匂いが漂っている。その匂いの元こそ、カルビーが展開するアンテナショップ「カルビープラス」だ。そこに秘められた新たな試みとは? 仕掛け人の1人である同社の関口浩に話を聞いた。

来店者数は100万人を突破

関口浩(カルビー株式会社)
「子どものころに『サッポロポテト バーベキュー味』を食べたとき、その美味しさに驚きました。あんな商品を作ってみたいですね」
 近ごろ、菓子メーカーが相次いでアンテナショップをオープンさせているが、その先鞭をつけたのが国内市場で圧倒的な強さを見せる“スナック菓子市場の巨人"、カルビーだ。

 2011年12月に原宿に第1号店がオープンした「カルビープラス」は、現在(2012年10月)までに新千歳空港店、東京駅店など全国5店舗が展開。東京駅店には多い日で1日2000人以上が来店し、全店舗合計の来店者数はすでに100万人を突破した。
 アンテナショップという今までにない新たなプロジェクト。成功に導いたメンバーの1人が関口浩だ。

「アンテナショップ事業の発端になったのは約3年前ですね。社内で『イノベーション大賞』という企画コンペがあり、私を含めた数人の社員がアンテナショップのアイデアを応募したんです。そこから実際にやってみようかという話になり、具体的にアイデアをまとめ上げ、役員会に提出しました。そこで認められて『カルビープラス』が正式にスタートすることになりました」

 アンテナショップのアイデアを提出した社員の中でも、関口は独特のイメージを持っていた。単に店頭で限定商品などを売る「物販」だけでなく、その場で調理したものを販売することを考えていたのだ。

「私はそれまで12年ほどポテトチップスをはじめとしたスナック菓子の商品開発をしてきました。商品そのものの美味しさにも自信はあるんですが、実は工場で食べる揚げたてのスナックも非常に美味しいんです。これをどうにかお客様にも味わっていただけないか、とずっと考えていました。アンテナショップの目的には会社や商品のブランド認知、マーケティング、スナック菓子以外の商品の訴求などいろいろな目的がありましたが、私の中では『揚げたてのスナックをご提供してお客様に喜んでいただきたい』という思いが第一でしたね」

 こうしてカルビーのアンテナショッププロジェクトは動き始めた。

山積みの課題に挑んだ仕掛け人の苦闘

カルビープラス
カルビープラスでは、外からポテトチップスなどの調理風景を見ることができる。「工場見学がコンセプトです」と関口。
 カルビーの代名詞といえば、ポテトチップス。当然、揚げたての商品としてはポテトチップスが最有力候補になる。しかし、そこには現場にしかわからない壁があった。

「実は、店舗で揚げたてのポテトチップスを提供するのは大変なことなんです。ポテトチップスの基本は生のじゃがいもを使うこと。冷凍では食感も味も変わってしまいます。本当のポテトチップスの味をご提供するには、土のついたじゃがいもを店舗まで運び、洗い、皮を剥き、スライスし、脱水し、フライし…といったたくさんの工程を店舗内でしなければなりません。設備も人員も必要です。非常に悩みました」

 限られたスペース、限られた予算。お客様からのニーズがどれだけあるかもわからない。だが、関口たちがしたのは、とにかく「やる」という決断をすることだった。

「物販や『じゃがりこ』の揚げたてタイプの『ポテりこ』、コロッケなどを提供することはさほど難しくありません。しかし、カルビーがアンテナショップをやるなら、いくら難しくてもポテトチップスをはずすことはできない――私たちはそう判断をしました」

 商品開発者であった関口が中心となり、店舗で揚げたてポテトチップスを提供する方法を詰めていった。可能なところは機械を導入したが、どうしても人手が必要な作業もあった。その最たるものが波型の厚切りポテトチップスのカットであった。

「フラットタイプのポテトチップスは機械でスライスしているんですが、波型のほうは機械が大きくて店舗には入らない。そこで、機械についている波型の刃を取り付けた鉋(かんな)のような道具を作り、スタッフが手作業でスライスすることにしました」

 他にも菓子メーカーならではの課題があった。菓子の製造に関しては国内トップのカルビーだが、店舗で作って売るというノウハウは持っていなかったのだ。

「じゃがいも以外の原材料はどこから仕入れるのか、システムや経理処理はどうするのか、スタッフの募集や指導はどうするのか…。すべてを一から決めなければなりませんでした。スタッフの指導はマニュアルに従ってできる形にしたかったんですが、マニュアル作りまで手が回らず、私が直接教えることになりました。とにかく、やらなければならないことが山積みで…。原宿竹下通り店がオープンする少し前に、とうとう私は過労で倒れてしまったんです」

 関口は苦境に立たされた。だが、カルビーのほぼすべての部署が協力して関口をバックアップ。数日の休息を得て回復した関口は最後の追い込みをこなし、第1号店のオープンにこぎつけたのだった。

600個のじゃがいもを手作業でスライス

関口浩(カルビー株式会社)
東京駅店の一番人気は「ポテトチップス&ソフトクリーム&ロイズチョコソース」(450円)。意外な組み合わせがウケている。
 カルビープラスは様々なメディアにも取り上げられ、連日行列ができるほどの人気となった。だが、それによって予想外の問題が起こった。

「一般販売しているポテトチップスは、フラットタイプのほうが波型より圧倒的に売れています。しかし、カルビープラスでは逆で、波型のほうが人気なんです。マーケティング的には大きな発見でしたけど、スタッフが手作業でスライスしなければならないじゃがいもの量が非常に多くなるわけで…(笑)。今は、1店舗で1日に600個程度をスライスしています。さすがに大変なので、どうにか機械化できないかと模索しているところです」

 様々な困難を経験しながらも、それを語る関口の表情はどこか楽しげだった。

「カルビープラスをやってみて、自分は店舗そのものや、そこに立って働くのが好きなんだなと改めて気づきました。私は大学時代の4年間、ファストフード店でアルバイトをしていたんですよ。最終的にはマネージャーまで任されて、オペレーションの仕方や運営も多少はわかっていました。カルビープラスには、そのときの経験が生かされていると思います。オープンのときはすべての店舗でスタッフを指導しながら私も商品を作っていましたし、今でもスタッフが足りないときなどときどき手伝ったりしています(笑)」

 カルビーの後を追うように他社もアンテナショップをオープンし始めているが、「こちらもいろいろと学ぶことができるので大歓迎」と関口は言う。

「お客様に喜んでいただきつつカルビーのことをよりよく知っていただく、というもっとも重要なミッションは今のところ果たせているかなと思います。今後は全国の主要都市に店舗を増やしていきながら、新たな商品をご提供していきたいですね」

 カルビープラスと関口のイノベーションストーリーはまだ始まったばかりだ。
※敬称略
  • 関口浩(カルビー株式会社)
  • 関口浩
    カルビー株式会社 総合企画事業開発本部 イノベーション開発事業部。44歳。'93年に新卒で入社。原料を供給する関連会社、ポテトチップスなどの商品開発部門を経てカルビープラス起ち上げに参加。商品開発では、同社ポテトチップスのほぼすべてのブランドに関わった。


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