プロジェクトの原点 KYOSHO「Dslot43」

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コントローラーを操作し、スロット(溝)が設けられたコース上にミニチュアカーを走らせるスロットカー。1960年代にブームになったことから40代以上には懐かしさを感じさせるが、当時に比べて大きく進化し、ファン層を全世代へ拡大しようとしているのだ。

1/43サイズに社内のノウハウを結集

足立喜代顕(京商株式会社)
1/43スケールのスロットカーはすでにヨーロッパのメーカーが製品化している。「うちはそれを上回る本気度の高いものを作ったつもりです」
 京商はラジオコントロールカーやダイキャストミニカー(ダイキャストモデル)で有名な会社だ。読者の中には、一度は京商製品を手にしたことがある人も少なくないだろう。
 そんな京商が新たにプロジェクトとしてスタートさせたのがスロットカー『Dslot43』だ。「ディースロット・フォーティースリー」と読むのだが、どことなく「AKB48」に似ているところが現代的である。

 もちろん、現代的なのは名称だけではない。Dslot43は、昭和の時代にブームになったスロットカーから一皮も二皮も剥けた、21世紀のホビーとして誕生したのだ。

 現在、たった一人でDslot43の開発に携わっているという京商の足立喜代顕はこう語る。

「私はもともとラジオコントロールカー開発をしていたんですが、ダイキャストミニカーを作る部署へ異動になり、数カ月して部署内で『新しいスロットカーを作ろう』という企画が持ち上がってきました。ラジオコントロールカーよりも手軽に自宅で遊べるものとして、スロットカーを提供しようということになったんです。ただ、部署が手がけていたダイキャストモデルは観賞用ですから、『動きモノを作るなら足立だよな』と言われて私が開発をすることになりました(笑)」

 一般的にスロットカーは1/24や1/32というスケールだが、足立を含めた京商のプロジェクトチームが選んだのは1/43という小ぶりのサイズだった(それが製品名の由来にもなっている)。

「『ダイキャストモデルを実際に走らせてみたい』という思いがあったので、サイズはダイキャストで人気のある1/43になりました。小さなサイズは日本の家庭事情にも合っています。また、京商ではすでに1/43の『dNaNo』というラジオコントロールカーを出してましたので、その技術を使うことも決めました」

 見た目の部分(ボディ)も、動く部分(シャシー)も、京商にはノウハウがあった。だが、それを組み合わせればいい…というほどスロットカー作りは簡単ではなかった。

ボディの作り込みと走行性能の両立という高いハードル

エンブレム(上)、サスペンション(中)など細部にこだわった作りが見事。デジタルセッティングが可能な無線コントローラー“KSD-01”(下)を開発中。
エンブレム(上)、サスペンション(中)など細部にこだわった作りが見事。デジタルセッティングが可能な無線コントローラー“KSD-01”(下)を開発中。
 「ダイキャストなら質感の高いボディを作れますが、スロットカーとして動かすためには合金製の重いボディというわけにはいかないので、プラスチックを使うことになります。そうするとディティールなどを出すのが難しくなるので、各所こだわって仕上げていく必要がありました。また、スロットカーはコースアウトして転倒することがあるため、車のアンテナやサイドミラーなど繊細な部品は壊れにくくしなければなりません。当然、軽快に走ることも大切です。京商が培ってきた“ダイキャストのスピリット"と“ラジオコントロールカーのスピリット"を高いレベルで融合させなければならなかったんです」

 外観と動作の両立が困難なのは説明するまでもないだろう。しかも、1/43という小さなサイズを採用したため、さらにその難しさは増していた。
 だが、足立は挑戦を続けた。目の肥えた既存のスロットカー、ダイキャストモデル、ラジオコントロールカーそれぞれのファンを満足させられるもの。さらに、スロットカーを知らない層にも興味を持ってもらえるもの。あまりに高度な要求を出したため、工場から「もう勘弁してよ」と言われたこともあるという。

 ところが、足立がDslot43で目指したのは、なんと外観と動作の両立だけにとどまらなかった。

「変なところにこだわるのが京商らしさなんですよね(笑)。たとえば、ビスの数が4本あれば足りるのに、より剛性を高めるために6本にしたりとか。4本のほうが生産効率も高いですし、コストもかかりません。でも、私も京商に20年以上いますので、京商らしさが体の一部になってしまってるんですよ(笑)」

 単にクオリティが高いだけではない。京商でしかできないものづくりのこだわりを込めて、Dslot43は生み出されていったのだ。

開発で大切なのは“自己満”である

足立喜代顕(京商株式会社)
「オプションパーツも豊富に用意しています。リジッドなセッティングに変えるなど、自分なりの走りを追求してみると面白いですよ」
 車のエンブレムやホイールなど細部まで徹底的に作り込み、壊れやすい箇所は軟質樹脂を使用。小さなシャシーにぎりぎりいっぱいのモーターやサスペンションを組み込み、ダウンフォースを高めるシャシー裏面に搭載した磁石は簡単に効き目を変えられるようにした。
 また、一般的な有線タイプのコントローラーではなく、2.4GHz帯を使った無線タイプのコントローラーをこの春発売予定。それによって操縦する場所が自由になったりする上、アクセル・パンチ・ブレーキという走りに関わる3つの要素が手軽に調整できるようになる。

「このコントローラーに盛り込まれている技術は画期的だと思いますよ。初心者でも既存の多機能コントローラーに比べて簡単に扱えますし、こだわろうと思うと奥深いセッティングも可能です」

 足立が開発したDslot43は、2011年12月に発売された。それに先立つドイツで開催された世界最大のトイショーの出品でも非常に注目度が高く、発売後も好意的な声が寄せられているという。現在は日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどで販売中だ。

「自分自身でも、本当にいいものを作れたという自負はあります。でも、もっともっと変えたいという思いは尽きませんね。ユーザーからも車種のリクエストなど様々なご意見が寄せられていますので、それを取り入れながらDslot43をさらに良いものにしていきたいと思っています」

 若い世代が車離れしていると言われる時代。とはいえ、メカニカルなものに惹かれる男子の気持ちは昔も今も変わらないものだろう。Dslot43は実車に乗る機会のない人にもアピールするものであり、一方、カーマニアにも充分楽しんでもらえるものだろう。

「特別な知識は必要ありませんし、お子さんでも簡単に走らせることができます。しかし、自分なりにいろいろセッティングをいじったり、カスタムしたりするスロットカーの醍醐味も兼ね備えています。精密なミニチュアカーがコースを駆け抜けていく楽しさを多くの人に味わっていただけたら嬉しいです」

 最後に、足立が開発という仕事に携わる上で大切にしていることを聞いてみた。

「それは“自己満"です(笑)。これがいいんだ、こんなところにこだわってるんだ、という自己満足の部分を製品に盛り込むようにしています。たとえば、タイヤを造形するにしても、角のアールを1つにしないで、2つ作って結びつけたり。あまり度が過ぎると怒られますが(笑)、私としては開発という仕事の根本にあるものではないかと思っています」

 多くの人に受け入れられるものを開発しようと考えると、どうしても最大公約数的な製品に落ち着いてしまいがちだ。だが、足立が言うような開発者独自の“自己満"は製品の個性となり、人の心をつかむ魅力になるのではないだろうか。また、それは前述の“京商らしさ"にもつながるものだろう。

 現代に新たなスロットカーブームを巻き起こすかもしれないDslot43。疾走する小さな車には数々の精密なパーツと共に、メーカーと開発者の思いも搭載されている。

※敬称略
  • 足立喜代顕(京商株式会社)
  • 足立喜代顕
    京商株式会社 ホビー営業本部 ダイキャストグループ。43歳。ラジオコントロールカーの開発部署を経て2010年より現部署に異動。ラジオコントロールカーでは1/10スケールの「PURE TEN」などの開発に携わった経験を持つ。


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