VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.11 北海道・十勝エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

更新日:2019/10/20

VOICE 41 北海道・大樹町「半田ファーム」半田康朗さん

(画像左)「自分が美味しいと思うものでお客さんが喜んでくれれば幸せ。朝昼晩、いつ食べても美味しい日常に馴染むチーズを作ります」/「半田ファーム」半田康朗さん (画像右上)父・半田司さんの代から作り続ける3種のチーズは、どれも牧草の品種から命名。酪農ありきの農家製チーズらしい商品名 (画像右下)チーズを味わえるティールームも併設

日本で個人の作り手が本格的なナチュラルチーズの製造を始めたのは、昭和50年代の北海道。先駆者が手探りで切り拓いた道は、それから40年を超える今、多くの後進に受け継がれています。

弱冠28歳の半田康朗さんもそのひとり。父・半田司さんは自ら搾った生乳でチーズを作る“農家製チーズ”の国内の先駆者として知られる人物です。10代の頃は「酪農に興味はないし、早くこの大樹町を出たかった」という康朗さん。予想外にチーズの道を選んだきっかけは、語学留学先のフランスでの光景でした。「貧乏学生が行く安い食堂にさえ、朝昼晩いつでもチーズがある。そこでワインとともに友人たちと楽しむチーズが本当にうまくて、こんなのが作れるならチーズ職人もいいかもなって」。

その後、現地の学校で2年間チーズ作りを勉強、5年前に帰国し、司さんからチーズ製造を引き継いでからは乳酸菌の配合など独自の改良を続け、新しい「半田ファーム」の味を作り上げました。「日常的なチーズを」。そんな原点を大事にする康朗さんのチーズは、そのまま食べても、料理に使っても、お酒に合わせてもいい懐の深い味わいです。

ちなみに、他の職人と交流するより“一匹狼”タイプを自認する康朗さん。「チーズに向き合い試行錯誤していると1年なんてあっと言う間。僕にはそれで十分です。自分が食べて美味しければ満足だから、今はコンテストにも出品しません」。

一方で製造の合間を縫い、物産展などへ積極的に出店。お客さんと対話し、チーズの多彩な楽しみ方を伝える機会を大切にしています。「今はこの街に住むのも楽しい。繋がりが強い場所なんです」。父から受け取ったバトンを、自分なりの信念で育てる康朗さん。真っ直ぐで飾らない若き職人が、日本のチーズ文化の未来を担います。

(画像左上)約200頭の牛を飼育。毎週平均300Lの生乳からチーズを作る。現在の牧場主は康朗さんの兄。穀物飼料にしょうゆ粕などを加えるなど、独自の工夫が (画像右上)「ミルクの味が濃いチーズですね」と「ル・ヴァンキャトル」のシェフ・北野智一さん。人生初の牧場の視察に興味津々 (画像左下)熟成チーズの他、「モッツァレラ」や「ヨーグルト」も人気 (画像右下)マイルドなセミハードタイプ「オチャード」(右・中)760円/100g、地元ワインの搾りかすに漬け込んだセミハードタイプ「池田清見ワインのかす漬け」(左)890円/100g

半田ファーム

TEL.01558-6-3182
住所/北海道広尾郡大樹町下大樹198
SHOP/直売あり。その他、帯広市「藤丸百貨店」、帯広市「とかちむら」、JR札幌駅構内「どさんこプラザ」などで販売

VOICE 42 北海道・大樹町「坂根牧場 乳life」坂根晃子さん

(画像左)「理想の口溶けを実現したモッツァレラ。上手に作る難しさこそこの仕事の楽しさです」/「坂根牧場 乳life」坂根晃子さん (画像右上)「 モッツァレラ」と一番人気のさけるチーズ「さけっちょ」(画像右下)全3種のチーズを製造。こちらは「カチョカバロ」

4代に渡り酪農を営んできた「坂根牧場」。こだわりは徹底した土作りから生まれる栄養豊富な牧草と、それをたっぷり食べてのびのび育つ放牧牛の生乳です。

乳のある暮らし=「乳life」という素敵な屋号の工房を切り盛りするのは、牧場主・坂根遼太さんの妻・晃子さん。チーズ作りを始めたのは2014年、生乳の質の良さを活かした加工品の製造を決めたことでした。

「せっかくなら、加工品の中でも作るのが難しいチーズに挑戦したかった」と言う晃子さんが誇る逸品はモッツァレラ。口中でふんわりとろりと溶ける繊細な食感は、独自に重ねた試行錯誤の賜物です。優し気な語り口の中に芯を感じる晃子さん。毎週約4kgの少量生産ながら丁寧な仕事ぶりが伝わるハイクオリティなチーズに、その職人魂が伺えます。

(画像上)アニマルウェルフェアの認証も取得する心地良い牧場 (画像下)「モッツァレラ」900円(100g)

坂根牧場 乳ライフ

TEL.01558-6-5622
住所/北海道広尾郡大樹町字大樹396-5
SHOP/直売あり。その他大樹町「道の駅コスモール大樹」などで販売

VOICE 43 北海道・幕別町「チーズ工房 NEEDS」磯部公児さん

(画像左)「今までもこれからも、食べる人を選ばない親しみやすい味を多くの方に届けたい」/「チーズ工房 NEEDS」磯部公児さん (画像右上)大型バット4つを備えた充実の設備。隣の牧場で搾った新鮮な生乳で仕込む (画像右下)槲(かしわ)の林に囲まれた工房

120年以上続く老舗牧場が前身の「NEEDS」。2003年、名門「共働学舎」の姉妹工房となってから多くの職人を輩出し、今では十勝を代表する工房となりました。

数々のコンテストの受賞チーズを手掛ける一方、「コンセプトは『いつものテーブルにチーズを』。ウォッシュや青カビタイプはありませんが、誰からも美味しいと言ってもらえるのがうちの強み」と工場長の磯部公児さん。

それを体現するのが、創意工夫と食べやすさを備えた代表作「大地のほっぺ」です。一見カマンベールのようですが、白カビと酵母を両用する独自製法により、あっさりした味わいとお餅のような食感を実現。

歴史に基づく技術力、年間50tの製造量を支える設備、そして何より誠実なチーズ作りへの想いが工房の人気を支えます。

(画像左)フレッシュ系、セミハード系、ハード系とラインアップも豊富 (画像右)「大地のほっぺ」1780円(300g)

チーズ工房 ニーズ

TEL.0155-57-2511
住所/北海道中川郡幕別町新和162-111
SHOP/直売あり。その他、帯広市「藤丸百貨店」、帯広市「エスタ帯広」、とかち帯広空港内のショップなどで販売

VOICE 44 北海道・広尾町「ゼンキュウファーム」久保悦子さん

(画像左)「チーズ作りは生活の一部。農家の暮らしをベースに、牛飼いをしながらこつこつ作るチーズです」/「ゼンキュウファーム」久保悦子さん (画像右上)チーズは「プレーン」とハーブを練り込んだ「キャラウェイ」の2種のみ (画像右下)放牧牛の生乳のうち、年間約1,500Lをチーズ原料に

今から35年ほど前、久保悦子さんが夫・善久さんと2人で築いた小さな農場が「ゼンキュウファーム」。約60頭の牛を放牧で育てながら、家族や動物たちと生きるコンパクトな暮らしを実践しています。

「大きい機械を買うお金も労力もないし、何とか生きるためにこうなっただけなの。自分で食べるものは自分で作るし、チーズも元々は自分用。少ししか作らないから『殿様商売』なんて言われたけれど、始めて20年も経っちゃった」と笑う悦子さん。

フランスへ視察に行くなど確たる技術を持ちながら、ついチーズのことよりも、天気や牛、酪農家仲間のことに話が及ぶ悦子さんは生粋の農家。噛みしめるほどに広がるチーズの素朴な美味しさに、悦子さんが愛する牧場の暮らしが重なります。

(画像上)動物好きを自負。馬や犬、猫、豚、鶏も飼育 (画像下)「プレーン」800円/100g

ゼンキュウファーム

TEL.01558-5-2158
住所/北海道広尾郡広尾町トヨイベツ47
SHOP/直売あり。その他、札幌市「チーズの店コンテ」で不定期販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】 北海道・十勝エリアのチーズを味わうランチ

共創料理 with ル・ヴァンキャトル

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第11弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたフランス料理店「ル・ヴァンキャトル」の北野智一シェフが腕を振るいます。まずは半田ファーム」の半田康朗さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、北野シェフがそのチーズを使用して作る全5皿の特別コースが登場します。

場  所/ル・ヴァンキャトル(東京都豊島区目白2-3-3 目白Yビル1F)
日  時/2019 年11月17日(日)12:30 ~15:00(予定)
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全5皿のコース)
募集人数/18名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2019年11月3日(日)

メトロミニッツ「家庭料理」特集

メトロミニッツ2019年11月号「家庭料理」特集

日本で「家庭料理」が生まれたのは、明治時代の後半だそうです。だから、そんなに歴史は長くありません。それは、近代化が進み、東京にサラリーマンを生業にする人が増え、「主婦」や「家庭」という言葉が広く使われるようになった頃、それまでの日本の家には「食事の支度」(炊事)はあっても「料理」はあまりありませんでした。つまり、米が主食で、おかずは煮物や焼き物くらいの食事だと、「母から子へ受け継がれる家庭料理」という雰囲気ではありませんよね。以後、時代を経るごとに「家庭料理」はどんどん多様化、価値観も人それぞれ異なるように。と言うわけで、今月は、今の「家庭料理」の像を追いかける特集をお届けします。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年11月号「家庭料理」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

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