VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.17 長野・山梨エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

更新日:2020/09/20

VOICE 65 長野県・東御市「アトリエ・ド・フロマージュ」塩川和史さん

(画像左)「創業者が作った味は守りながら試行錯誤で理想の味わいを実現。ナッティな香ばしさと強い旨み、なめらかな口どけを楽しんで」/「アトリエ・ド・フロマージュ」塩川和史さん (画像右上)ヨーロッパのチーズのようなしっかりした塩味と複雑な風味が持ち味 (画像右下)ショップとカフェ、レストランを併設

日本を代表するチーズ工房の1つ「アトリエ・ド・フロマージュ」は、1982年、故・松岡茂夫さんとその妻・容子さんにより設立されました。当時は国産チーズの黎明期。フランス産チーズの美味しさに感動して出版社を辞め渡仏、現地のチーズ学校で学んだ夫妻のことを、「本当にチャレンジを大事にする方々。いつも『百のことをやって、その内一つでも成功すればいい』と言われてきました」と語るのは、チーフの塩川和史さんです。

松岡夫妻とはご近所同士として育ち、高校時代にレストラン部門のアルバイトも経験した塩川さんは、夫妻の誘いで製造部門に就職、以後13年間チーズ作りに携わってきました。その名が広まったのは2015年、世界的チーズコンテスト「モンデュアル・デュ・フロマージュ」で、製造を担当したブルーチーズが最高賞を受賞した際。その後は国内外のコンテストの受賞常連工房に。

当時の先輩に「世界三大ブルーのようなチーズを作りたい」と言うと「無理だ」と否定されたことが原動力になったと塩川さん。研究と実践をひたすら重ねて築いたチーズ作りのノウハウは、独自性が際立ちます。

例えば、使う生乳は、市内の牧場で搾られるホルスタインのものと、上田市にある契約牧場のジャージー、ブラウンスイスのものを混ぜますが、16種ほど作るチーズの種類により、その配合を調整。熟成庫は菌のタイプ別に5庫を揃えて立ち入るスタッフを限定、庫内の環境を徹底的に管理するなど、全工程に気が配られます。

「最近は若手スタッフの成長が目覚ましい。いずれは私を超えてほしくて。その手助けが、今のモチベーションです」。そう語る塩川さんの言葉から、国産チーズ界の草分けとして挑戦を続け、その成長を支えた工房の歴史と、日本のチーズ文化が成熟していく未来が見えてきます。

(画像左上)現在は6人で年間約40tのチーズ作りをこなす、名実共に日本トップクラスの工房 (画像右上)ブルーチーズにこだわりを持つ塩川さん。毎ロット必ず熟成中のチーズをカットし、状態をチェックする。奥から1週間、10日、1カ月半が経過したもの。「機械の数字は信用しません」 (画像左下)冷涼な気候ときれいな水に恵まれた東御市。最近はワイン産地としても有名 (画像右下)「わがままを込めた」という塩川さん肝入りのブルー「翡翠」は、昨年コンテストで金賞を受賞(右)2680円/150g、酸凝固タイプの「ココン」(左)890円/50g

アトリエ・ド・フロマージュ

TEL.0268-64-2888
住所/長野県東御市新張504-6
SHOP/直売あり。その他、軽井沢町「アトリエ・ド・フロマージュ軽井沢チーズ熟成所・売店」、東京都港区「アトリエ・ド・フロマージュ南青山店」などで販売

VOICE 66 長野県・長和町「長門牧場」丸山亮さん(右)、田中正樹さん(左)

(画像上)「奇をてらわず基本を守った生乳の味がわかるチーズ。ぜひ牧場の空気の中で味わってほしいです」/「長門牧場」丸山亮さん(右)、田中正樹さん(左) (画像左下)冷涼な気候に恵まれた標高1400mの高地で、約200頭の牛を飼育。うち25頭はブラウンスイス種 (画像右下)併設のレストラン
でできたてチーズを

自然豊かなリゾート地・白樺高原に位置する「長門牧場」の始まりは1966年。「町の産業を作ろう」という想いから、多くの町民の出資により設立されました。
観光牧場ながら、「酪農地帯の暮らしを体験してほしい」と遊具は設置せず、乳製品作りなどのアクティビティが充実。気軽に酪農と触れ合える場所として、日々観光客でにぎわいます。

地に足の着いたコンセプト同様、チーズ製造のモットーも“基本に忠実に”。25年前の製造当初より、伝統的な製法を踏襲しながら、年代を問わず食べやすいチーズを揃えてきました。誠実な姿勢は、その味わいにも顕著。

なめらかな口どけのゴーダや、熱をほとんど加えず軽さと酸味を活かすクリームチーズ、地元産味噌を使ったチーズなど、記憶に残る美味しさです。

(画像左)生乳の味が活きたソフトクリーム (画像右)「クリームチーズ」550円/100g

長門牧場

TEL.0267-55-6969
住所/長野県小県郡長和町大門3539-2
SHOP/直売あり。その他、茅野市「たてしな自由農園 茅野店、原村店」、東京都中央区「銀座NAGANO」などで販売

VOICE 67 山梨県・北杜市「ファームいなば」稲葉公次さん

(画像左)「栄養満点で消化に良く臭みも全くなし。山羊乳のすばらしさを多くの人に届けたい」/「ファームいなば」稲葉公次さん (画像右上)世界的に知られる機関「家畜改良センター長野支場」で勉強した稲葉さん。生乳の一部は同センターから仕入れる (画像右下)飲むヨーグルトも人気商品

八ヶ岳山麓の自宅で、山羊のつがいと暮らす稲葉公次さん。長年東京で営んだ割烹料理店を閉め、終の棲家として北杜市へ移住後、県内のペットショップで見かけて衝動買い(!)した山羊が稲葉さんの人生を変えました。

「山羊のミルクは消化に良く、アレルギーも起こりにくい。栄養素が豊富でにおいも少ないし、びっくりするほどいいことばかり」。その驚きを原動力に車庫を工房に改装し、2015年には乳製品製造許可を取得、独自に山羊の育成・研究を行いながら、チーズやヨーグルトを作ってきました。

毎月5kgほどしか生産しないクリームチーズは、さっぱりした風味と繊細な食感が魅力。「自信作だよ」と破顔一笑の稲葉さん。「今年で84歳だけれど、益々元気。山羊ミルクの良さは、この私が証明しています」

(画像左)毎日2回、生乳を手搾り (画像右)「やぎさんのチーズ」2900円/200g

ファームいなば

TEL.0551-32-4838
住所/山梨県北杜市長坂町小荒間1286-1
SHOP/直売なし

VOICE 68 山梨県・富士河口湖町「河口湖チーズ工房」宮内理さん(右)、厚子さん(左)

(画像左)「隣の牧場の生乳を譲り受け製造できる環境が自慢。個性ある独自のチーズも充実させる予定です」/「河口湖チーズ工房」宮内理さん(右)、厚子さん(左) (画像右上)フレッシュや熟成タイプ、アレンジチーズまで幅広く製造 (画像右下)緑茶の殺菌作用に注目し、試作中のウォッシュチーズ

富士山の麓、涼しい風が吹く標高1000mほどの富士ヶ嶺は、古くからの酪農地帯。宮内理さんは、長年地元の乳業会社などで培った経験を糧に、定年退職後の2016年、自宅脇に小さな工房を開きました。

緑茶を使ったウォッシュチーズを試作したり、近所の日本獣医生命科学大学の牧場と連携し、ブラウンスイス種や珍しいエアシャー種の生乳だけでチーズを作ったりと、独自の挑戦にも意欲的な宮内さん。取材中も技術的な質問が次々飛ぶなど、とにかくチーズ作りに熱心です。

直売がメインですが、近所のキャンプ場で行われる週末限定の訪問販売では、フライパンで焼いて食べるカチョカバロが大人気。直接工房を訪問した人には、夫妻の丁寧な解説と試食でもてなしてくれる、チーズ愛あふれるスポットです。

(画像上)工房の真正面には雄大な富士山。周囲には牧場が点在する (画像下)「フレッシュゴーダ(ブラウンスイス種)」1180円/100g

河口湖チーズ工房

TEL.0555-89-3087
住所/山梨県南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺856-3
SHOP/直売あり。その他、河口湖町「おいしいキャンプ場」(週末のみ)で販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ

今回紹介したチーズ工房「アトリエ・ド・フロマージュ」のチーズを使ったレシピを、恵比寿のイタリア料理店「ALMA」の佐藤正光シェフに教えていただきました。

メトロミニッツ「New“フルサト”ツーリズム」特集

メトロミニッツ2020年10月号「New“フルサト”ツーリズム」特集

今月の特集は、“もう1つのふるさと”(=フルサト)を見つける旅に出ませんか?というご提案です。いえ、そんな“フルサト”を探すためのアイデアをご紹介する特集で、世の中が落ち着いたら、本格的に旅に出るための心の準備号です。名付けて、「New“フルサト”ツーリズム」。遡れば、これは2011年9月号にて初めて掲げたテーマで、メトロミニッツが提案する“フルサト”の定義は「生まれ育った場所でなくても、せわしない東京の日常に疲れた時にふと“帰りたくなる”土地のこと」。例えば、東京出身とか、子どもの時に引っ越しが多かったとか、誰もが必ずしも理想の故郷を持っているとは限りませんが、疲れた時に“また帰ろう”と思える土地は大人になってからも出合えるもの。そんな“フルサト”を持っていると、私たちはもうひと回り心豊かに日常を暮らせるようになる気がしませんか?

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年10月号「New“フルサト”ツーリズム」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

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