1300年前から伝わる伝統技法!奄美大島の美しい「泥染め」を巡る旅へ

日本の服作りを支える、土地の職人を訪ねる旅。編集者・山村光春さんの心を揺さぶった、鹿児島県奄美大島に伝わる「泥染め」の話をご紹介します。ジャパンメイドの服が生まれる町で、山村さんが綴った旅の物語。

更新日:2021/05/20

染料作り。島に自生するテーチ木(車輪梅)を砕いて煎じ、煮出した木は乾かして燃料に、残った木灰は墨染や釉薬に。これぞ完全なる使い切り

絶対に奄美大島でしか作り出せない染めの技法

たれこめた重い空に気が塞ぎかけたものの、すぐ思い直します。そう、今回の奄美大島は、“光を観る”ことが目的ではないのでした。むしろ「これこれ」と、心をざわめかせたのは、島特有のざらりとした風光です。暗い雲の向こうの、鈍く発光する雲。ぬくく湿り気のある懐っこい風。くねりと曲がった枝がほうぼうに伸びる木々。三次元でしか感じ得ない大自然がその実、すべて泥染めにつながっていることを知ったのは、ずいぶん後になってからでした。

どこでも、なんでも作れてしまえる今の時代。「そこでしか作れないもの」と言われても、うまく想像できませんでした。例えば洋服のタグに記された遥か遠い原産国、その土地や、作り手の“らしさ”に思いをはせようとも、はせきれないように。しかし奄美大島には「絶対にここでしか作り出せない」技法があるというのです。泥染め。その理由をたどり、感じるためには、行くしかありません。今の世において、なんとメロウな響きでしょう。「行くしかない」だなんて。

ということで、やって来ました。まずは泥染めのもと、「大島紬」についての知識を得ておこうと「大島紬村」を訪れます。

テーチ木染め。通常は効率重視で熱を加えるが、染料に濃度があるので常温で。機械を使わないため、災害で停電しても作業できる

その工程は気が遠くなるほど多く、おそろしく緻密でした。全部でおよそ50もある工程の中でも、要となるのが泥染め。自生するテーチ木を砕き、煎じた液で絹糸を染めた後、泥田に浸し、揉み込む。するとタンニンと鉄分が化学結合を起こし、赤茶色に染まります。これを90回近く(!)繰り返すことによって、大島紬特有の、深く渋い黒になると言います。これが江戸時代、薩摩藩へ献上するための貢物として選ばれ、やがて着物を嗜む人にとっての、憧れの存在となったのです。

ただ、ただです。「奄美はもともと、和装じゃないんですよ」と「金井工芸」の金井志人さんは、慎重に持論を語ってくれます。「絣(かすり)は東南アジアがルーツですし、着るものも『羽織る』とか、そういう感じで。また高温多湿なので、素材はシルクより、芭蕉布とか苧麻(からむし)の方が理にかなってる。泥染めも農作業をする中で、自然にできた気がするんです」

すると、すでに長くあった文化を工芸として昇華させたのが大島紬? 
「と思えば、納得がいくかなぁと」
じゃあ、泥染めも本来は原始的な、生活に近い文化だったってこと? 
「そうですね。憶測ですけど」
それは金井さんが、染めをやりながら実感しているのもある?
「あります。もう、やればやるほどそれは感じますね」

ようやく、言い切ってくれました。

泥染め。水の中に鉄分が溶け出している状態なので、泥田に設えた枠に入り、足で攪拌し、絹糸を揉み込む。成分が変わるので調整しつつ

アカギ、と呼ばれる巨木が対になり、工房の前でゆうゆうと葉を繁らせていました。「夏はいい日陰になるんですよー」と金井さんは言いますが、ポツポツと降り出した今はむしろ、雨しのぎにおあつらえ向きです。その脇を抜け、裏手に回ると「作った」というより「そうなっちゃった感」満々の水たまりが現れました。ディス・イズ・泥田です。

「奄美は150万年前の古い地層が残っているので、土の鉄分が豊富で、粒子が細かいので入りやすく、糸を傷つけないんです」。ここに職人さんがズブズブ半身を浸からせ、足でガシガシ泥を攪拌し、生地をジャブジャブ揉みほぐす。その様子を見ていると「なんだなんだ、この地球との一体感ハンパない眺めは!」と、胸がアツく震えるのでした。

「だからここにいると、染めをさせてもらっている、くらいの感覚なんです」。金井さんは、謙虚に語ります。「ここでは自然のほうが圧倒的に強いので、合わせていくのが大前提。生活もそう。台風とか災害も多いですし、停電もちょくちょくある。でも受け入れるしかない。ものもないところなので、ある材料を使って、知恵を絞る。そこが奄美のおもしろいところだと思うんです」

「ここでしか作れないもの」の裏には「ここにいるしかなかった」島の人たちの、知恵と生き様が隠されていることを知るのでした。

仕上げ。「テーチ木染め」と「泥染め」の工程を90回近く重ねることで、色落ちしない、深く光沢のある渋い黒色に染まる。大島紬の場合、この後、織りの工程へ

泥染めはブルース。深みや渋みがあるのがいい

雨はさらに激しく、あたりの景色もどんどんどんより暗く、濃くなります。ここで、あ、と思いました。この感じ、泥染めと似ているかも、と。「結び付いてると思います。泥染めって、全然ポップじゃないんですよ。ブルースみたいに、渋みや深みがあるのがいい。だから今日のような天気のほうが、“らしい”って思っちゃうんですよね」と笑う。

奄美ならではの染めの文化を、次へつなぐために。金井さんは染色家として、異業種とのコラボレーションを積極的に行なっています。「解釈としては、音を作るのと、色を作るのって近いなと」。一時期、東京で音響の仕事をしていた金井さんらしい表現です。
「土地の音ってあるじゃないですか。ほら、こんなふうに」
すると絶妙のタイミングで、チュチュチュと、鳥の鳴き声が聞こえます。「同じく、土地の色というのもある。そう思ったとき、音をサンプリングするような感覚で、色も作ることができるんじゃないかと。ここには織りも含め高い技術があるし、活かせるものはいっぱいある。必要なのは、知恵を絞ること」

その言葉にハッとすると、金井さんは頷きます。
「表現の仕方は違えど、人が作って、使うものですから」

金井工芸

伝統技法である泥染めだけでなく、藍染めなどさまざまな天然染色を担う工房。ユニクロやイッセイミヤケなど、異業種とのコラボレーションも行う。併設するギャラリースペースでは、それらプロダクトを展示販売するほか、個人向けに染め体験が可能(3000円~)。素材は持ち込み、もしくは現地での購入も可。

TEL.0997-62-3428
住所/鹿児島県大島郡龍郷町戸口2205-1
営業時間/10:00~18:00(最終受付15:00)
定休日/日
予約/可 ※電話にて要予約
アクセス/奄美大島空港より車で約28分

PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/MITSUHARU YAMAMURA(BOOKLUCK)
※メトロミニッツ2021年6月号特集「着ることで変わる、日本の服」より転載

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