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海苔屋さん直伝! 海藻の本当においしい食べ方~有明海・海苔~【連載エッセイ】

更新日:2022/05/20

その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。海藻も言ってみれば、海が育てる野菜です。歯ざわりと香りとうま味と・・・、白央さんが初めて出会ったときからすっかりとりこになったという海苔の名人、成清海苔店の成清忠さんに会いたくて、海苔養殖の本場・有明海を訪ねました。

ちぎって、のせるだけ!
いちばん手軽なシーフード

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ちぎった海苔をトッピングしたカレー。海苔とルーは相性抜群、うま味が増してスプーンが止まらない

「食べてみィ、うまいから」。
そう言って成清忠(なりきよただし)さんは海苔をちぎり、たっぷりカレーの上にのせた。いただいてみると海苔はなんの違和感もなくルーと溶け合って、うまい。「やろー? これも一種のシーフードカレー」と笑う。成清さんちでは昔から定番のトッピングだそう。全体のうま味がグンと上がるんだな、いっそ海苔とスパイスを主体にしたカレーを作ってみたくなる。発見だった。

柳川市は福岡県の海沿いのまち。国産海苔の約4割を生産する有明海をのぞむ地だ。有明海の沿岸部では当然多くの海苔店がある。中でも私は成清さんの海苔に以前から惹かれていた。歯ざわりが格別で、口の中でふわり溶けて消えゆく食感が見事で、舌と鼻に残るうま味と香りには何か貴さのようなものがあって。成清さんの家ではどんなふうに海苔を食べているのか知りたくなり、今回お邪魔した次第。しかしいきなりカレーとはなあ!
 
忠さんの妻・千賀(ちか)さんが「とっておきのごちそうたい!」と出してくれたのが、ウナギのかば焼きと白焼き。柳川市は堀や川が多く、ウナギは名物のひとつでもある。焼いたウナギに柚子コショウをちょいとのせ、海苔でくるんでいただくのである。かぶりつけばバリバリッと威勢の良い音を海苔が立て、ウナギの脂とうま味を包みながら口の中で双方が溶け合い、噛むごとにまあ・・・たまらないおいしさ。ややもすると重たいウナギのコクを絶妙な爽やかさで引きしめる柚子コショウ、すばらしいサポートだ。

「薬味は『按田餃子(*1)』特製のミックススパイスを添えてもおいしい」と千賀さん。やってみたら新たな世界が開けた。ガラムマサラとウナギと海苔の相乗効果など誰が想像できるだろう。いや、これがうまいのだ! うーん・・・佳肴発見、焼酎やラムを合わせてみたくなる。しかしこのインパクトの強い〝うまうま〟感、成清さんの海苔じゃないと受け止められないな。

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左/海苔で巻いていただくウナギのかば焼き(上)と白焼き。柚子コショウやミックススパイスを薬味にすれば、新たなおいしさの扉が開く 右上/海苔クリームうどんは、磯の香りとうま味の洪水! 右下/海苔を巻いただけのおにぎりが、最高のごちそうだ

お次は海苔のクリームうどん、うどんを生クリームで温めてアミ(*2)の塩辛と柚子コショウで調味、たっぷり海苔を加えればできあがり。海のうま味に満ちて食欲を刺激されることこの上ない。久留米の料理研究家さんのレシピだそう。

ああ、あらためて思うのが海苔のポテンシャル。うま味があってビタミンやミネラル、食物繊維もとれ、保存もきく実にすぐれた食材なのだ。キッチンにお邪魔する前、忠さんが案内してくれた有明海の姿が心によみがえる。「ここは海苔が育つ海の畑です。有明の雨風が耕してくれる」なんて言葉が忘れられない。

やっぱり一番はこれ、と最後に出してくれたのはおにぎり。たまらなかった。ごはんの甘みと塩と海苔、シンプルなおいしさの最上形である。


*1:代々木上原に本店がある餃子店。通販あり
*2:有明海でも漁獲されるアキアミ、ごく小型のエビの仲間

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【取材風景より】忠さんの母・君代さんはおにぎり名人だった。しっかりまとまっているのに、食べるとフワッ。塩気の塩梅もお見事で、口の中で海苔と混ざり合う時間がたまらなくおいしく、楽しい

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【取材風景より】撮影後に「こんなのもあるよ」と出してくれたのが、海苔をちぎってお椀に入れ、出汁をかけたお吸いもの。抜群においしくて慌てて再度撮影開始! 「お醤油ちょい加えてもいいけど」いやいや、うま味と香りに満ちてこれだけで充分です。良質な海苔のポテンシャルを実感したなあ

有明愛、海苔

【取材風景より】成清海苔店の仕入れ先は、地元の皿垣開(さらかきびらき)漁業協同組合を中心とする有明海の海苔養殖業者たち。海苔を育てて、収穫し、板海苔の状態にするまでが彼らの仕事。それを忠さんをはじめとする加工・販売業者が一括購入し、乾燥させてから焼きを入れて、再度乾燥させて包装し、商品化していく

有明愛、海苔

【取材風景より】案内してもらった海苔養殖の海。忠さん曰く、皿垣開の海苔養殖業者たちは「海苔づくりに実にこだわっていて、あえてムダなことをしている」そう。たとえば、よそではもっと成長してから摘む海苔の芽を早い時期に摘むのは、若いぶん柔らかいから。そして、摘んだ芽が流水に流れ出やすくなるのもいとわず「最高に」細かく刻むのは、口どけをよくするため。さらに、食感をよくするために、一般的な水準よりも厚みのある板海苔を作るのだという

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【取材風景より】成清忠さんは成清海苔店の二代目。シーズン最初の11月下旬~12月上旬に摘み取る「秋芽一番摘み」と呼ばれる海苔にこだわっている。味も香りも柔らかさも口どけもうま味も食感も、すべてが一番よいと考えているためだ。また、この時期の海はまだ海苔が若いこともあって、病害を防ぐために海苔を有機酸に漬ける「酸処理」を経ていないことも理由のひとつ。見た目よりも味重視、環境への負荷も考慮して、より自然な育て方をした海苔を提供したいと考えている

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【取材風景より】最後に、柳川の美しい景色を。市内には掘割(ほりわり)と呼ばれる大小の水路が無数にめぐらされている。元々はこのあたりは湿地帯で、掘割によって水はけをよくしてきた歴史の名残だ。あちこちからせせらぎが聞こえ、小舟が行き交い、水鳥がたたずんで。朝の散歩が忘れられない(取材時期は2022年3月)

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成清海苔店

日本一の海苔生産量を誇る有明海で特に風味豊かで口溶けがよいとされる、シーズン最初に摘み取った「秋芽一番摘み」の海苔だけを取り扱う、成清忠さんが営む海苔店。地元の皿垣開漁業協同組合を中心に有明海の養殖業者が丹精込めて育てた海苔を乾燥させて、一枚一枚丁寧に焼き上げている。

TEL.0944-75-6400
住所/福岡県柳川市上宮永町32-10

文・白央篤司

はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、朝日新聞ウィズニュースなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など

PHOTO/KEI KATAGIRI
※メトロミニッツ2022年6月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載

※記事は2022年5月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります