ひと昔前は下戸のための選択肢だったノンアルコール。でも、最先端の食シーンでは常識は大きく変貌しています。注目のバーを訪ね、ノンアルの「今」をお届けします。
ノンアルは“妥協”ではなく
“新しい世界へのトリップ”
―現代フレンチの旗手「フロリレージュ」でのペアリング経験を持つバーテンダーの髙田さんと、ソムリエの児島さん。ここ数年、急激に存在感を高めるノンアルコールを、お2人はどう捉えているのでしょうか。
髙田 大きな転機はコロナ禍です。お酒の提供の自粛をきっかけに、多くのお客様が「ノンアルでも十分に食を楽しめる」と知ったんです。僕がいた「フロリレージュ」では2015年からノンアルペアリングにも力を入れていましたが、お酒を愛飲する常連の方でも「ここへ来たらノンアルコールを試したい」という声が増え、全体の4割近くに達する日もありました。
児島 10年ほど前は、ジュースやウーロン茶くらいしかなく選択肢が狭かったのですが、現在は劇的に変化しました。私は元々ワインや日本酒のペアリングを提供していましたが、5年前に「フロリレージュ」で研修を重ねるなどしてノンアルコールに没頭していきました。理由は純粋な好奇心と、ノンアルゆえの「難しさ」です。アルコールにある液体としての「骨格(ボリューム感)」がノンアルコールにはありません。酸味、苦み、甘みなどの軸をどう決めてバランスを組み立てるかという「骨組み作業」は、まるで料理を作る感覚です。
髙田 だからこそ、「飲めないから」という妥協ではなく、カクテルという表現がもたらすペアリングは、「新しい世界へのトリップ」くらいインパクトのある発見感をもたらすのだと思います。バーにおいても、3杯のうち1杯はノンアルコールを挟むなど、なくてはならない存在になりました。
――料理と合わせる際、アルコールの有無によって、カクテルづくりにはどんな違いがありますか?
髙田 僕がアルコールカクテルをペアリングに用いる際は、アルコール度数はワインと同等のボリューム感を意識します。一方で、ノンアルコールは液体にどうボリューム感を「持たせるか」が勝負になります。
児島 私の場合は、1杯の中に重層的なボリューム感を出すため、口に含む瞬間の「第一アロマ」、広がる「第二アロマ」、後半の余韻である「第三アロマ」を意識しています。時間差による香りの立ち方を計算して、立体的な満足感を生み出しています。
――ノンアルコールは今後どのような存在になっていくと思いますか?
児島 季節感やクリエイティビティを表現するものとして、料理と同等の存在感を放っていくと思います。お酒を飲む、飲まないといった垣根を越えて、誰もが対等に豊かな食体験を共有できます。
髙田 本当にそうですね。「飲めないから」というフェーズは完全に終わりました。これからは、レストランやバーを愛する人にとって、新しい体験ができる刺激的な飲み物として、定着していくと思います。
Photo/TARO OTA Text/YUMIKO NUMA
※メトロミニッツ2026年8月号より転載






