ただおいしいからだけじゃない。食堂に足が向くのは、そこでしか味わえない人の温もりがあるからだ。体というより、心の栄養をもらう場所。東京の街に今も残る、“ただいま”が言いたくなる食堂、「きさらぎ亭」(桜新町)の物語を訪ねた。
ペコペコのお腹を満たす
家のような団欒
注文を受けると、店主の横山あかねさんはてきぱきとフライを揚げ始めた。姿勢よく、きっぷがいい。以前は舞台役者をしていたと聞いて、合点がいった。「役者は飲食業に向いています。人を見て、空気を読む仕事だから」。こざっぱりした店内、厨房からは客の顔がよく見える。常連が来ると「今日はチキンカツかな」と先回りして準備をすることもあるという。「食べ方には、人柄が出ます。だからスタッフの面接ではいつも定食を食べてもらうんです。どんな子かわかるから」。
幼い頃から見てきた両親の背中を追い、8年前に店を継いだ。ランチが終わればスタッフに店を託して帰宅し、家族に夕飯を作る。「店でも家でもお母さんをやってるようなものです」と笑った矢先、遅番の学生が出勤してきた。「お腹ペコペコでしょう。なににする?」すぐに厨房へ向かう。この場所で、これまで何人の空腹を満たしてきたのだろう。彼女が回す食堂には、家のような団欒があった。
きさらぎ亭
きさらぎてい
TEL.03-3426-1482
住所/東京都世田谷区桜新町1-40-10
Photo/MEGUMI SEKI Text/KAORUKO SEYA
※メトロミニッツ2026年9月号より転載






