ただおいしいからだけじゃない。食堂に足が向くのは、そこでしか味わえない人の温もりがあるからだ。体というより、心の栄養をもらう場所。東京の街に今も残る、“ただいま”が言いたくなる食堂、「キッチンABC」(大塚)の物語を訪ねた。
味以上を追い求める
洋食屋の静かな闘志
開店1時間前の店内は静かな戦場だった。客席を磨き上げるのはベテランのホールスタッフ。創業57年目の洋食屋とは思えない、清潔な空間には油のベタつきひとつない。厨房では3人のコックが黙々と手を動かす。店主・山下さんは定食に添える豚汁を仕込む。腰高ほどの大きな寸胴鍋に入れる野菜や肉を、できるだけ細かく切るのは「1杯の中に具がムラなく入るように」。都内に4店あるチェーンなれど、気遣いには店の色が出る。これだけ仕込んだ300杯が、1日で無くなる。
「料理は段取りと掃除です」と山下さん。味とボリュームは大前提。その上でいかに早くできたてを提供するか。いつ来てもきれいな店を保つか。味以上を追求する静かな闘志が、人気の絶えない理由だろう。11時のオープンとともに続々と客が入り、あっという間に満席になる。むわんと熱気の立つ店内で、それでも段取りし尽くされた厨房は冷静に、熱々の皿を次々と生み出していった。
キッチンABC 南大塚店
キッチンエービーシー みなみおおつかてん
TEL.03-3947-9854
住所/東京都豊島区南大塚2-36-1
Photo/MEGUMI SEKI Text/KAORUKO SEYA
※メトロミニッツ2026年9月号より転載






