おもしろいこと、この地から。週 刊 東 北! Vol.014/いわき発の現代アートフェス、開催中

週刊東北!

【毎週水曜 16:00更新】
10月22日から福島県いわき市で始まった「まちなかアートフェス 玄玄天」。商店街や、いわき出身の詩人・草野心平さんの記念文学館など11の会場を舞台に、国内外の作家37組の現代アート作品が展示されている。今年3回目というその展示はどんなもの? いわきの町とどう呼応しているの? オープンしたての会場で、アーティストの皆さんに聞いてきました。

更新日:2016/10/26

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会場で配られるガイドブック/野菜と果実の店・八百清の軒先で出会える、白濱雅也さんの作品「博士の遺品:大根型 (大根になった私)」

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駅からすぐの通りにも、商店と住宅が隣り合わせに並ぶ平(たいら)地区

東京から2時間半、のどかないわきの街中で
とにかく自由な展示が繰り広げられる

 いわき市はそもそも50年前に14の地域が合併してできた市で、その面積は香川県の7割を占めるほど。海もあり山もあり町もあり、一言で表現するのはやや難しい。だから1回の訪問では足りない。行くたびに「次はあのエリアに行きたいな」と思ってしまう町。
 
 アートイベント「玄玄天(げんげんてん)」は2014年にスタート。いわき駅周辺の平(たいら)エリアのお店や建物に自由にアートを展示し、町の楽しみ方、町へのかかわり方に1つ接点を作ろうという試みだ。
3年目の今年は、国内外から37もの作家が集まっており、”ちょっと気合を入れてめぐる芸術祭?”と、やや緊張感を持っていわき駅に降りる。でも目に入るのは、喫茶店や洋品店の並ぶ、ほっとする街並み。


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Andreas Kressigさん「HOMO SHIROI」。このピンク色のこけしは、町の各所にひょっこり現れる

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青木聖吾さんの「shadows」は、駅前の商業施設「LATOV」からいわきの空と町を借景として展示されている

 その中に、野菜店の軒先に伏し目がちなピーマンの彫像が、観光案内所にマスク姿のこけしが佇んでいたりするから、思わずお店の中の人を覗いたり、話しかけたりしてしまう。アート観賞を超えて、「まちなかに生まれた感情」を受け取っているみたい。

 芸術祭というと、森の中だとか湖畔だとか、いわゆる「圧倒される大自然に抱かれる、大いなるアート」というのが多かったりもするけれど、「玄玄天」は人間のサイズの――つまり町の、暮らしの中での、再発見体験だ。そして、アート作品は、その糸口になってくれる。


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もりたか屋の2Fに展示された明界要介さん「Gem」は、ものごとの関係性を表現

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玄玄天主催の会田勝康さん(左)、出展作家の加藤智大さん(中)と哲多くん、新藤杏子さん(右)。新藤さんは2Fのお風呂を使った「inner universe」の作品を展示

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三浦かおりさんの「□□□□□。」は、草野心平さんの詩から着想を得たもの

エリアごとに違う顔、違うアート
それがきっと、この町らしさ

と、土曜の昼下がり、穏やかな心持ちで歩きつつ、イベントの主催者である会田勝康さんのご実家である洋品店・もりたか屋へ。ここも会場だ。すると、ちょっとその様子が異なっている。幅広すぎる展示内容・・・。


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中村通孝さん「塊(Que)」。もりたか屋の階段自体を作品に

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井上庸子さんのプリント写真展示「テレージェンシュタット」「ラーフェンスブリュック」

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いわき在住の作家・小峯宏美さん。室内の気配を切り取る作品「或る午後」

 ヨーロッパで活躍する写真家の井上庸子さんは福島と日本の今をも照らし出すドイツの強制収容所の写真を、三浦かおりさんはいわきの詩人・草野心平さんの詩をモチーフに、句読点の後に続く“語られない人の思い”を照らし出した作品を展示する。
 さらに木造とコンクリートをあわせ持つ、もりたか屋の建物の構造が、作品の鑑賞体験にも変化をつけていて。

3階建ての空間には、緊張も、しみじみも、安らぎも、いろんな引き出しが詰まっている。


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喫茶ブルボンにて。いわきの“サブカルチャーの聖地”を1人で作り上げた宮崎甲子男さんの作品群の前で。会田勝康さん(奥)、出展作家のイガわ淑恵さん(左)、三浦かおりさん(右)

 少し歩くと、さらに想像を上回る場所も登場した。喫茶ブルボン。
オーナー宮崎甲子男さんは、一生、美術家を名乗らずに生きてきたのだというけれど、彼の湧き出るような作品群がそこかしこに数百点。宮崎さんが亡くなった今も、この作品はここに佇んでいる。カオスな作風ながらも家族や、人生訓、祈りや神仏、愛をテーマにした作品が多い。

 改めて、宮崎さんの孫であり、主催の会田さんに、玄玄天のコンセプトを聞いてみる。
「いわきでアート展をやりたい、その気持ちだけですね(笑)。草野心平といういわきの詩人が居ます。彼の玄玄天という詩のように、空からこの地を、何もかも包み込むように見据え、提示する展示になれば」。
 どこまでものびのび、自由な展示なのだ。事実、今回の展示には、アイシングクッキーだって作品としてエントリーしていたりする! 

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かわいらしい雑貨やお菓子のお店「Lanthanum(ランタン)」では、玄玄天を模したアイシングクッキー380円を展示販売。食べるのは惜しいけれど、ぜひおみやげに

話さずとも、すれ違う誰かの気持ちに
ふと、触れ合える場

 喫茶ブルボンから15分も歩くと「芸術文化交流館アリオス」にたどり着く。もう少しさわやかな青空が望めたら、きっとお昼寝していたなという、広々した芝生を望む場所。

 ここで、藤城光さんといういわき在住のアーティストが、ガラスのドアに、砂で絵を描いていた。いわきの海岸線を走っていると出会える、塩屋崎灯台のたもとの豊間という地区の砂。彼女は2007年に東京からここに来て以来、この砂と、海の風景が大好きだった。

 震災後の今、この地区の景色は変わっている。でも、記憶はここに刻み込むことができる。「地元で、地元以外の方と一緒に、こういう展示ができることが嬉しい。連帯感があるんです」。

 藤代さんの作品に接するのは、苫小牧の藤沢レオさんが作るブルーの柱の作品。彼も地元の町に開いた作品制作を続けながら、玄玄天の思いに共振することが大きかったのだそう。


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藤城光さんが制作中の作品「遠い渚」。この砂のガラス窓に、大好きな豊間地区の海岸の映像を投影する

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藤沢レオさんの「場の彫刻 V」。「柱を立てて、なにかの始まりになること。それを町の中に埋め込み表現しました」

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神戸のイガわ淑恵さんは、2年4カ月前から1日も欠かさずに継続する自画像日記「今日のもがき」を展示。853枚の原画がアリオスの壁に広がる

 アートとは私たちに、どんな思いで作ったのかな?という想像力を引き出してくれるもの。旅先の町でふとすれ違う人たちへのことへも、思いをめぐらせるきっかけのようなものなのだろう。

 展示をきっかけに、いわきの人と話せたらとても楽しい。でも、すれ違う人もまた、ちょっぴりのご縁だったりする。
 このアートフェスは、いわきの町と、町の人へのドア。さらには、隣町のお祭りにふと遭遇したときのような、幸せな気持ちのおすそわけの感じに近いかもしれない。玄玄天は、11月13日まで開催中だ。


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鉄の朝顔を一輪、日本酒店「さわきや」裏の茶室に展示した加藤智大さんの「青い朝、黒の夜、鉄朝顔」。この細やかな花になるまでの、たくさんの鉄の変化した時間ごと味わって

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駅近くの夜明け市場の飲食店4店舗では、玄玄天とのコラボメニューも展開。店内では、作品のタイトルのような思わせぶりなメニューが1枚提示される。何が出てくるかは想像力次第・・・

【今月出会える、東北の素敵な場所】
福島県いわき市/いわきまちなかアートフェスティバル「玄玄天」

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「まちなか」の展示は半日で十分めぐれる。郊外の草野心平記念文学館は時間が許せば、ぜひ訪れてみたい会場。10月30日にはいわき出身の総合エンターテイメントバンド十中八九さんによる、お寺の竹やぶで実施する「O TE la LIVE」、11月3日にはゴトウイズミさん(写真)による「哀愁純喫茶cabaret劇場」を開催。

日程 ~11/13(日)
会場 平地区の店舗や商業施設等(詳しくはHP参照)
入場料 無料※イベントは有料
問い合わせ 090-9538-5804(会田さん)

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